2025年9月、Spotifyがついにロスレスオーディオの配信を開始しました。有料版の「Spotify Premium」会員であれば追加料金なしで利用できます。
そこで今回はSpotifyの音質について、ロスレスとは何なのかという点から聴くときの環境や設定方法、Amazon Music UnlimitedやApple Musicとの比較まで詳しく解説します。
Spotifyの音質を比較
Spotifyには無料で使える「Spotify Free」と有料版の「Spotify Premium」があり、利用できる音質オプションが異なります。当然ながら、無料版では音質が低く設定されています。
Spotifyはどのプランでもオンデマンド再生が可能なため、サービスを体験してみたいという人にFreeプランはぴったりです。ブラウザ版の音質は128kbpsと低めですが、アプリなら最高160kbpsで聴くことができます。有料版の高音質と同じなので、利用するならアプリがおすすめです。
有料版では「ロスレス」を含む高音質なオプションが用意されています。音楽を本格的に楽しみたいときは、プレミアムプランへアップグレードするというように、好みに応じて調整できます。
| Spotify Free | Spotify Premium | |
|---|---|---|
| Web Player | 128 kbps(AAC) | 256kbps(AAC) |
| デスクトップ・モバイル・タブレットアプリ |
|
|
(※)音声形式のないものはOgg Vorbisです。
Spotify Premiumにロスレスが対応
Spotifyの音質は、これまで320kbpsのロッシー音源が最高音質でした。2025年9月、新たにロスレスのオプションが追加されて手軽に高音質を楽しめるようになりました。
Spotifyがサポートしたのは、最大24bit/44.1kHzのロスレス再生です。Spotifyで配信されているほぼすべての楽曲が対応しており、Spotify Premiumのいずれかのプランに登録するだけで利用できるようになります。
| 音楽配信サービス | 最高音質 |
|---|---|
| Spotify |
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| Amazon Music Unlimited |
|
| Apple Music |
|
Spotifyの高音質化が発表されたのは2021年のこと。ロスレス対応は長らく待ち望まれていたもので、ユーザーとしてはシンプルに歓迎したい進化です。
ただし96kHzや192kHzの「ハイレゾ」には非対応のため、Amazon Music UnlimitedやApple Musicに比べるとスペック上は控えめと言わざるを得ません。最高音質が320kbpsだった以前と比べると明らかに音質が向上している一方、音にとことんこだわりたい人には少し物足りないかもしれません。
ロスレスとは?
ロスレスは、名前の通り「ロスがない」ことを意味してます。最大のメリットは、再生するときに劣化なしで音楽を復元できる点です。
Spotiyがこれまで採用していたOgg VorbisやAACは、データを軽くするために一部のデータを削除して圧縮をおこないます。そのため音楽を再生するときは音質が劣化してしまいます。今回Spotify Premiumに追加されたロスレスでは、音質の劣化が起こらないFLACを採用しています。圧縮はしますが、可逆圧縮により圧縮前の元の状態に戻すことができるのが特徴です。
音質面では大きなメリットがありますが、サイズが大きくなるというデメリットもあります。またストリーミングで再生するときは、安定したインターネット接続も必要となります。
ロスレスを聴くときの環境は?
Apple純正の「USB-C-3.5mmヘッドフォンジャックアダプタ」
Spotifyをワイヤレスのイヤホンやヘッドホンで楽しんでいる人は多いでしょう。しかしBluetoothを利用して音楽を聴くときは、AACやSBCといったBluetoothコーデックに変換されて伝送されます。高音質の320kbpsよりはクリアに聴こえますが、ロスレス本来の音質を発揮できません。
ロスレスを楽しむなら、「USB-C-3.5mmヘッドフォンジャックアダプタ」や「ライトニング-3.5mmヘッドフォンジャックアダプタ」「イヤホンジャック変換アダプタ」などを利用して有線のイヤホンやヘッドホンを直接スマートフォンに接続するのが最も手軽です。Spotifyの24bit/44.1kHzがそのまま再生可能で、音の立体感が向上します。
また、デスクトップのスピーカーを利用する手もあります。高解像のスピーカーなら、Spotifyのロスレスで十分な臨場感や透明感を感じられるはず。さらにDACやASIOドライバーを追加して、音質をステップアップできます。音質にこだわるなら、外部DACと高品質のイヤホン/ヘッドフォンを組み合わせるのがおすすめです。イヤホンやヘッドホンを駆動するのに十分な電力を供給できるため、より鮮明で力強いサウンドを楽しめます。
ただしここまで環境を揃えると、Amazon Music UnlimitedやApple Musicのハイレゾオーディオも再生できるため、Spotifyのロスレスは物足りなく感じるかもしれません(後述)。
ロスレスを聴くときの注意点
ロスレスオーディオではファイルを圧縮しますが、不可逆圧縮と比べるとサイズが大きくなりがちです。Spotifyのロスレスは、1時間の楽曲をダウンロードするのに24bit/44.1kHzで最大1GB、16bit/44.1kHzで最大0.7GBのストレージを使用します。理由はわかりませんがSpotifyのFLACは圧縮率が低く、非圧縮の音源とあまり変わりません。
そのためオフライン再生用にダウンロードする場合は、十分なストレージを確保しておく必要があります。
- 24bit/44.1kHz:約0.897GB(952,560,000B)
- 16bit/44.1kHz:約0.591GB(635,040,000B)
ロスレスを聴きたいならブラウザは使えません。Spotifyではブラウザで再生すると音質が256kbps(AAC)となります。デスクトップで再生するときはデスクトップ版のアプリを利用することをおすすめします。
このほかWi-Fiなどでストリーミング再生する場合でも、安定したインターネット接続が必要です。Spotifyのロスレスでは、最低でも1.5〜2Mbps程度の環境が推奨されています。
ロスレス音質の使い方
Spotifyのロスレスを利用するには、Premiumプランへの登録が必要です。無料版のSpotify Freeで聴くことはできません。
Spotifyアプリでロスレスを有効にするには、音質の設定を「ロスレス」に変更します。デフォルトではロスレスはオフになっており、従来のロッシー音源が選択されています。
画面左上のアイコンをタップして、[設定とプライバシー]を選択します。
[メディアの音質と画質]を開いて音質を設定します。WiFi、モバイル通信での再生、またはダウンロードのそれぞれで音質を選べます。
データ通信量が多くなるため、モバイル通信でロスレスを選択するのはおすすめしません。
ダウンロードの品質でロスレスを選択すると、以後のダウンロードがロスレスになります。外出時でもオフライン再生でロスレスオーディオを楽しみたい人は、これを選択しておきましょう。
24bitと16bitの違い
ロスレスが有効になると、再生画面のConnectアイコンに「ロスレス」が表示されるようになります。Spotifyのロスレスには、24bit/44.1kHzと16bit/44.1kHzがあり、Connectアイコンから調べられます。同じアーティストでも24bitと16bitが混合しており、現時点では後者が多い印象です。
16bit/44.1kHzは標準的なCD音質で、品質が劣化するロッシー音源よりもクリアです。24bitはスタジオ録音のクオリティに近い音質となり、音の質感がより滑らかになります。量子化ノイズも小さく押さえられるため、静寂の表現力がアップします。
ただしワイヤレスイヤホンやスマホのスピーカーでは16bitと24bitで違いを感じるのは難しく、普段使いではどちらも優秀です。
他社の音楽配信サブスクとの違い
Spotifyがロスレスに対応するまで、高音質といえば「Amazon Music Unlimited」と「Apple Music」の2つが定番でした。ここではライバルとなる音楽配信サービスと比較してみます。
Amazon Music Unlimitedと比較
Amazon Music Unlimitedはハイレゾロスレスや空間オーディオにも対応
Amazon Music Unlimitedは、ロスレスに加えてハイレゾロスレスや空間オーディオも配信しています。ハイレゾロスレスはCDの音質を超える最大24bit/192kHz(Ultra HD)、空間オーディオはドルビーアトモスと360 Reality Audioの2種類に対応しています。
ロスレスは16bit/44.1kHzのCD品質です。ハイレゾロスレスが一部の楽曲でのみ配信されているのに対して、ほぼ全曲がロスレスに対応しています。
Amazon Music Unlimitedの料金は月額1080円でSpotifyと同じです。しかし、Amazonプライム会員なら月額980円の割引価格で使えるほか、年額9800円の年間プランも選べるためSpotifyよりも割安です。現在のところ、ハイレゾ対応として最も手頃に利用できるサービスといえます。
Apple Musicと比較
Apple Musicの音質設定画面
Apple Musicもまたロスレスに加え、ハイレゾロスレスと空間オーディオを提供しています。Apple Musicは「ALAC」という独自のコーデックを採用し、音楽配信サービスの中でも特に高音質にこだわっています。
Apple Musicでは、すべての楽曲を「AAC」(Advanced Audio Codec)と「ALAC」(Apple Lossless Audio Codec)の2種類のフォーマットで配信しています。ロスレスは16bit/44.1kHzのCD音質から最大24bit/48kHz、ハイレゾロスレスは最大24bit/192kHzです。
空間オーディオは、映画やゲームでも採用されているドルビーアトモスに対応しています。AirPods ProやAirPods Max、Beats Fit Proと組み合わせることで、頭の動きに応じて音の位置が変化する「ダイナミックヘッドトラッキング」を利用可能。実際にライブ会場にいるような没入感が得られると好評です。ドルビーアトモスが意図している通りの本格的な3Dサラウンドを楽しめます。
ロスレス/ハイレゾロスレスに対応し、オーディオ環境が揃っている人が安心して使える仕様です。iOSやApple製品との親和性も高く、普段使いから一歩上の音質を狙えるサービスです。
まとめ
Spotifyのロスレスは、手軽に高音質を楽しむのにぴったりです。ハイレゾロスレスと違って必要な機材が少ないので、環境も簡単に揃えることができます。Spotifyのインターフェイスやサービスが気に入っていて使っているなら、今回のアップグレードは大いに満足できるはずです。
ただ、少しでもいい音質で聴きたいという人や再生環境が揃っている人は、依然としてApple MusicやAmazon Music Unlimitedが優位でしょう。ハイレゾに対応しているという点で、今後再生機材に投資しようと考えている人も安心できます。