これは、一生に一度の恋の物語。
もし一生涯想い続けられる人に出会えたら、平凡な人生でもそれを誇りに生きていける。この映画の主人公は、そんな人なのです。
映画『君に読む物語』は若い頃に出会い、恋に落ちた2人が人生の終盤に差し掛かってもその想いを失わず添い遂げた男女の物語です。アルツハイマーとなって記憶を失ってなお残る恋心を呼び覚ますために、男はとある2人の恋愛物語を読み聞かせます。それは彼が愛する人のためだけに書いた物語なのです。
20世紀初頭、南部の労働者と良家の娘が出会い、恋に落ちるも身分違いのために破局。しかし、何年経っても互いを忘れず、ついにはその愛が成就する様をロマンティックに描いた作品です。
身分違いの2人の恋
現代の老人ホーム。1人の老女が孤独に過ごしているところに男性がやってきて、物語を読み聞かせます。それは男性にとって日課のようなものでした。アルツハイマーを患っているその女性はその物語を覚えていませんが、どこかで聞いたことがあるような気がしています。それはこんな物語でした。
1940年、アメリカ南部の田舎町シーブルックで材木業の仕事に従事する青年ノア(ライアン・ゴズリング)は、別荘で夏を過ごすためにやってきた良家の子女・アリー(レイチェル・マクアダムス)に一目惚れします。ノアはアリーを強引にデートに誘い、2人は次第に愛し合うようになります。しかし、アリーはニューヨークの名門大学への進学予定、対してノアは田舎で肉体労働に従事するしがない青年。身分違いの恋を案じたアリ―の母は、2人を引き離そうと別荘を離れることを決意。2人は愛し合ったまま離ればなれになってしまいます。
ノアは1年間、毎日アリーに手紙を書き続けますが、アリーの母をそれを一切アリーに渡そうとはしませんでした。やがて2人は別々の道を歩み始め、ノアは第2次世界大戦に従軍、ヨーロッパ戦線で戦い親友を失います。一方、アリーはボランティアとして看護を務め、病院で南部の資産家・ロンと出会い、新たな恋を見つけます。
アリーはロンと婚約するのですが、未だにノアのことを忘れていませんでした。アリーは、その気持ちにケリをつけるためにシーブルックに行き、ノアと再会することにします。戦争から帰国したノアは、地元で新たな人生を歩むために新しい家を買い改築に勤しんでいました。
数年ぶりに再会した2人は激しく愛し合います。それでもすでに時は遅すぎたのか、365通の手紙の真相を知ってもアリーには踏ん切りがつきません。そこにアリーの母親が迎えに来て、かつて自分も駆け落ちしたいほど愛した男性がいたことを聞かされます。ロンとノア、アリーは最後にどちらの男性を選ぶのでしょうか。
その物語を聞いていた老女は、次第に記憶が蘇っていきます。その物語は老女の物語だったのです。しかし、記憶はいつも一瞬しか戻りません。それでもノアは奇跡を信じてアリーに物語を毎日のように聞かせ続けているのです。
「自分は平凡な男だが、一つだけ誇れることがある。それは生涯1人の人を愛し続けたこと」とノアは言います。アリーもまた、アルツハイマーとなり記憶を無くしていても、愛だけは忘れていません。ベタといえばベタな話です、しかし、そのベタな話を、奇をてらうことなく描ききって、永遠の愛として昇華させた見事な作品なのです。
名監督の息子と妻の共作
本作の監督、ニック・カサヴェテスは男女の愛を描き続けた名監督ジョン・カサヴェテスの息子。父から受け継いだ恋愛映画のセンスを見事に発揮しています。ちなみに晩年のアリーを演じているジーナ・ローランズはニック監督の実の母。ジョン・カサヴェテスによる映画の多くに主演し、多くの作品で素晴らしい演技を披露しているベテラン女優です。
主演を務めたライアン・ゴズリングの、優しく不器用な田舎青年もはまり役。華やかなヒロインのレイチェル・マクアダムスも映画の華にふさわしいゴージャスかつチャーミングな魅力で映画を盛り上げています。
ともすれば、使い古されたとも言えるクラシックな恋愛物語を、それでもあえてストレートな展開と描写でつくられた、至極のラブストーリーです。王道の恋愛映画を観たい人には是非おすすめしたい一本です。
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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部