漫画やアニメ作品の実写映画化は、原作とのイメージの乖離や、エピソードの割愛などの理由で批判にさらされることが多いです。しかし、『帝一の國』はそんな漫画の実写化作品でありながら原作ファンにも、原作を知らない観客にも絶賛されました。役者のキャラクターへのなりきりぶりは必見。なにより、原作とは異なりながらも納得感のある展開を作り上げた脚本が充実しています。
日本の政治風土への風刺としても非常に面白くできていて、ホモ・ソーシャル的な政治世界への皮肉もたっぷり。政治を描いた作品でこれだけ堅苦しくなく笑える作品はあまりありません。ホモ・ソーシャル社会の批判だけでなく、それを逆手にとったBL的な魅力も満載。見どころたっぷりの作品です。
ヒロインは志尊淳?
通産省官僚を父に持つ赤場帝一(菅田将暉)は、総理大臣となり自分の国を作るという野望を持って、全国屈指の名門高校・海帝高校に入学します。この学校は政財界に太いパイプを持ち、生徒会長になった者には将来の内閣入りが約束されるほど。帝一は自らの野望の実現のため、あらゆる手段を用いて生徒会に取り入ります。しかし、幼馴染で父親同士もライバルの東郷菊馬(野村周平)や、真っ直ぐな性格で人望のある大鷹弾(竹内涼真)など多くのライバルが立ちはだかります。
生徒会長候補となるためには、まずは強力な派閥に入って派閥の長を勝利に導かねばなりません。映画は帝一たち1年生が時期生徒会選挙のために2年生の候補の2人、森園億人(千葉雄大)と氷室ローランド(間宮祥太朗)を盛り立てる姿を中心に描いています。
中高一貫の男子校という設定で、主要登場人物はみんなイケメン。全員俳優としての実力も申し分なく、見事に漫画のキャラクターになりきっています。特に、志尊淳が演じた帝一の親友・榊原光明はこの人にしかできないだろうと思うほどのハマりぶり。まさに漫画がそのまま実写になったと言っても良いレベルでしょう。
そんなイケメンたちの最大の見せ場が、ふんどし一丁の太鼓のシーン。そのバカバカしさに爆笑しつつも、一糸乱れぬ見事にパフォーマンスに感心させられます。
この映画のBL的な魅力は、そうしたビジュアル面だけでなく、男同士の友情の描き方にも表れています。帝一がヒロインの美美子(永野芽郁)を差し置いて光明に駆け寄るシーンがあるように、帝一と光明は恋人以上の強い絆で結ばれているのです。その他のキャラクターにもパートナーとなるキャラが必ず置かれ、男ばかりの高校の濃密な人間関係が描かれています。
政治の世界への皮肉もたっぷり
本作は、日本の政治の腐敗を皮肉る側面も持っています。帝一の父と東郷の父もかつては同じ高校で生徒会長を争った仲ですが、東郷が生徒会長になり、閣僚入りを果たしたのに帝一の父は官僚止まり。その時の確執がいまだに残る2人は息子の選挙戦にも介入していきます。そこからスキャンダル合戦に発展していき、さらには「実弾(お金)」をバラまいて票を集めようとするなど、政治を風刺するような内容も込められています。
日本の政治の世界は男性優位ですが、そんなホモ・ソーシャル社会を批判するようなシーンもあります。帝一は幼い頃はピアノが好きで人と争うことを好まない優しい子でした。それが父の教育でピアノを辞めさせられ、総理になる野望を植え付けられます。自分の好きなものを殺してでも、男らしくなり勝利せよというのですが、本当にそれで良いのかと帝一は後に気づきます。
その他、2年生の氷室ローランドと森園億人の対立にも男らしさを巡る違いが表れています。氷室は腕っぷしの強い典型的な体育会系キャラですが、森園はフェミニンな外見で文化系の人間。強さを誇示して人を従わせようとする氷室に対して、森園は自らの政策の正当性と人望で勝負します。そして、そんな森園こそが旧態依然とした生徒会のやり方に異を唱え、だれもやらなかった改革を実行するのです。
抱腹絶倒のコメディ作品でありつつ、社会のあり方についても考えさせてくれる優れた作品。ラストの帝一の選択も痛快そのもの。鑑賞後の満足度はとても高い一本です。
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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部