サーミ族というのをご存知でしょうか。
スカンジナビア半島ラップランド地方やロシア北部に居住する先住民族で、トナカイを遊牧しながら暮らす少数民族です。近年では、ディズニーの大ヒット映画『アナと雪の女王』に登場するクリストフや、架空の民族「ノーサルドラ」のモデルにもなったことで、聞いた事がある人もいるかもしれません。
しかし、彼らは少数民族ゆえに迫害、差別された歴史を持ち、スウェーデンにおいては今も差別感情が残り続けています。映画『サーミの血』は、スウェーデン近代のサーミ族に対する差別をあぶり出す作品です。美しい民族衣装をまとった彼らが受ける過酷な仕打ちを1人の少女の体験をもとに赤裸々に描き、人が自由に生きることの大切さを訴えています。
サーミ族を捨て初めて自由を得た少女
1人の老婆が、息子と孫娘とともに妹の葬式に向かっています。老婆は身内の葬式にも関わらず行くのを渋っていました。その老婆はサーミ人でかつてサーミのコミュニティを飛び出し、その事実を伏せて生活していたのです。
老婆は過去を思い出します。少女時代、妹ともに過ごした日々のこと、そして周囲から受けた過酷な差別を。
1930年代、サーミ族の少女・エレ・マリャは、妹とともにサーミ人の寄宿学校で生活していました。しかし、学校ではサーミ語の使用は禁じられ、体罰も日常茶飯事、さらには人類学者たちがやってきて、裸にされ調査の対象とされるなど屈辱的な日々を送っていました。エレは自由になりたくて、進学を希望しますが、担任教師は「サーミ人の脳は文明に適応できない」と告げられ、進学も許されませんでした。
ある日、エレは民族衣装を脱ぎ捨て、スウェーデン人のフリをして近所のパーティに忍び込み、ニクラスという青年と出会います。初めて、人間らしい扱いを受けたエレは、彼を頼りに学校を脱走することを決意します。
しかし、逃亡した先でも待っているものは差別でした。ニクラスの両親にサーミ人であることがばれると追い出され、行く宛もなくたどり着いたのは住み込みのバレエ学校。しかし、学費が払えずついには行く宛がなくなってしまいます。エレはそれでも1人で生きていくことを決め、両親と妹に決別を伝えに行くのです。
エレはただ自由に生きたいだけでした。しかし、サーミの村ではそれは叶わず、学校に留まっても進学の道はありません。自分らしく生きるために、彼女は1人で生きるしかなったのです。
監督はサーミとスウェーデンの混血
監督のアマンダ・シェーネルは、サーミ人の父とスウェーデン人の母を持ちます。本作のアイデアは自身の一族の年長者たちから聞いた話を盛り込んでいるそう。主人公のエレのようにサーミのアイデンティティを捨てて生きた人もいれば、伝統を守りながら暮らす人もいて、その対立なども本作で描かれています。
近年、サーミ族はディズニーの『アナと雪の女王』でフィーチャーされ注目を集めることになりました。ディズニーは彼らの文化を尊重するため、サーミ人の代表と契約を交わし、文化コンサルタントを受け、正確な描写につとめたそうです。
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『アナ雪』以外にも、近年サーミ族を取り上げたアニメーション作品があります。Netflixのオリジナル作品『クロース』は、冴えない郵便局員とサンタクロースの友情を描いた作品ですが、トナカイを飼育するサーミ族が重要な役割で登場します。
少数民族の迫害の歴史はどこにもあるもの。日本のアイヌなども同様ですが、こうした差別を乗り越え、本当の意味で多様な文化を尊重する世界を作るために、本作のように負の歴史と彼らの文化の素晴らしさを改めて見つめることは大切なこと。本作で是非、スウェーデンの知られざる歴史に触れてみてください。
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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部