夫婦の倦怠期を抜け出す秘訣は不倫? 大人の恋の冒険描いた映画『間奏曲はパリで』

夫婦の倦怠期を抜け出す秘訣は不倫? 大人の恋の冒険描いた映画『間奏曲はパリで』

夫婦生活を営むのに必要なものは忍耐でしょうか、それとも恋心でしょうか。永遠の課題とも言える問いかけですが、それは日本だけでなく、恋愛大国のフランスでも難しい問題のようです。

『間奏曲はパリで』(原題:La Ritournelle)は、倦怠期を迎えた夫婦がどうやって愛を再確認するかを描いています。コミカルなタッチで肩の力を抜いて楽しめるコメディでありながら、なんだかいろいろ身につまされる部分も多い作品です。

「アバンチュール」という言葉があります。これはフランス語で「冒険」という意味です。それが転じて不倫や浮気を指す言葉として用いられることもありますが、ただの浮気よりも少しポジティブな意味合いを感じさせます。

本作はまさに、そんなポジティブな意味での「恋の冒険」を描いた作品です。つかの間の非日常体験が、日常の大切さを教えてくれることを描いています。

映画の本質をとても良く表している邦題

フランスの地方・ノルマンディーで牛の畜産を営むブリジット(イザベル・ユペール)とグザヴィエ(ジャン=ピエール・ダルッサン)の夫婦は、仲は良いけれど、長い夫婦生活でマンネリ感を抱いています。夫婦としての愛が冷めたわけではありませんが、退屈な田舎暮らしと平凡な毎日にブリジットは嫌気が指しています。そんな折、近所の若者の家のパーティでパリから来た若い男と知り合い、ブリジットの心にある変化が起きます。

ある日、ブリジットは肌荒れの治療と称してパリに1人で小旅行に出かけることを決意。パーティで出会った例の若い男やデンマーク人の紳士と、つかの間の情事を楽しみます。異変を感じた夫のグザヴィエも妻に内緒でパリに行き、後をつけますが、どうすればいいか彼にはわからなくなります。

夫婦生活を長く続けるのは大変なこと。家族とはいえ元々は他人、若い頃には恋で燃え上がっても、それが何十年も続くわけではありません。平凡な毎日に彩りが欲しいという気持ちは誰もが持っているものでしょう。アバンチュールを求める心はそういう気持ちが源泉です。

でも、それはちょっとの休憩だから良いもの。長く続けていては、アバンチュールもすぐに日常になってしまいます。そうしたらまた退屈な日々に逆戻りです。冒険は非日常だから新鮮なのです。

本作の邦題はその意味で大変素晴らしいセンスだと思います。間奏曲とは休憩中に流される曲のこと。ブリジットのパリでの情事は、あくまで休憩中に気分転換で聴こえる間奏曲のようなものなのです。フランス語の原題(La Ritournelle)にはない言葉ですが、映画の本質をとても良く表している言葉です。

パリジェンヌの理想、イザベル・ユペールの意外な魅力

本作の主役、イザベル・ユペールはフランス映画界を代表する女優です。日本の映画ファンにも人気の高い女優で、どちらかと言うと都会的なセンスの人物のイメージが強いかもしれません。

実際、イザベル・ユペールはパリ出身の生粋のパリジェンヌ。そんな人が、パリに憧れる地方の女性を演じる意外性も本作の魅力の一つです。

このキャスティングについてマルク・フィトゥシ監督は、自身のデビュー作のコメディ映画でも彼女を起用しており、そのコメディエンヌぶりを知っていたとのこと。プライベートでもユーモアのある人で、今回の役のような人物に近い人だそうです。そんな普段の映画では観られない、素に近いイザベル・ユペールの姿がたくさん描かれた作品でもあるようです。

『間奏曲はパリで』トークショー : Festival du Film Français au Japon 2014 / Compte rendus

夫婦生活を長く続ける秘訣を軽やかに描いたこの作品。不倫ものなのに重々しくなく、さわやかな読後感のある大人のラブコメディです。でも、なかなか現実に不倫しろとは言えないですから、こうして映画でアバンチュールを体験するのがちょうどいいのかもしれませんね。

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構成・文:杉本穂高

編集:アプリオ編集部