いまニュースアプリが脚光を浴びている。
「SmartNews(スマートニュース)」は、この2月に300万ダウンロードを超えた。KDDIが資本参加した「グノシー(Gunosy)」は、180万ダウンロードを突破したことを明らかにしている。また、国内5000万人のユーザを抱えるLINEがリリースしている「LINE NEWS」も100万ダウンロードを超えているものと思われる。
これらのニュースアプリは、ユーザから必要とされるとともに、メディア業界やマーケティング界隈などからも熱い視線を集めている。
なぜ、ニュースアプリが話題になっているのか
なぜ今、ニュースアプリが話題になっているのだろうか?これには、スマホ登場の前後で静かで大きな地殻変動が起きつつあることが関係している。
スマホ時代以前のニュースサイトの中で他を圧倒する地位を築き上げたのは、ご存知の通り「Yahoo!ニュース」(以下、ヤフーニュース)だ。
しかし、SmartNewsのようなニュースアプリがダウンロード数を伸ばし続けていることから明らかなように、今のスマホ時代ではアプリを使ってニュースを読む人々が増え続けている。一方で、ヤフーが提供するニュースアプリの存在感は、PCにおけるそれに比べて見劣りするのが現状だ。
大まかなダウンロード数が公開されているGoogle Playにおける、上記ニュースアプリとヤフーニュース関連アプリのダウンロード数およびレビュー数は次のとおりだ(ヤフーとLINEはニュースアプリのダウンロード数を公表していないため、Google Playの数値を参照する)。
DL数 | レビュー数 | |
---|---|---|
Yahoo!トピックス | 100万〜500万 | 2,549 件 |
Yahoo!ニュース | 10万~50万 | 1,095 件 |
SmartNews | 100万~500万 | 19,839 件 |
グノシー | 10万~50万 | 3,982 件 |
LINE NEWS | 50万~100万 | 4,695 件 |
上の表を見れば、ヤフーの存在が圧倒的というほどではないことが分かるだろう。
ニュースアプリが注目される理由のひとつが、この混沌とした状況にある。
ブラウザからの閲覧を脇に置いて考えると、もしかしたら「スマホアプリの枠内でヤフーニュースを倒せる」かもしれないのだ。
(追記:3/21 13:40)
ヤフーニュースは「Yahoo! JAPAN」公式アプリからも閲覧可能だが、ここではニュースに特化したアプリで比較することとした。
なお、Android版「Yahoo! JAPAN」公式アプリのダウンロード数は500万~1000万。Androidアプリのみで比較した場合、ヤフーニュースを読める公式アプリの合計ダウンロード数は、推計で610万~1550万となる。
ヤフーニュースアプリと比較
そのような状況もあり、ニュースアプリ業界はまさに戦国時代。魅力的な特徴を有したアプリが多数リリースされているが、今回その中から6アプリを厳選した(ポータルサイト系や新聞系のアプリは除外)。
- SmartNews
- グノシー
- LINE NEWS
- NewsPicks
- vingow news
- Kamelio
ヤフーニュースを倒すアプリがここから現れるのだろうか。各ニュースアプリのヤフーニュースとの差別化ポイントをチェックしてみよう。
Yahoo!ニュース
まず手始めに、"ラスボス"であるヤフーニュースのアプリ「Yahoo!ニュース」の特徴を見てみよう。
いわゆるヤフートピックス(「主要」のタブ)に加え、速報、経済からエンタメ、スポーツまで12ジャンルの情報を網羅。各ジャンルはタブで整理され、ジャンル間はスワイプで移動できる。
テキスト主体のリスト形式でニュースの一覧性を確保。自サイト内の記事をキャッシュしているため、読み込みも速い(この点、ここで紹介する他のニュースアプリは、多数のサイトを表示・閲覧させるためのブラウザアプリだ)。
また、記事閲覧時に関連記事を簡単にチェックできる点も優れている。
何と言っても、ヤフーニュースの強みは、国内外のWebメディアからニュースソースを大量に確保していることと、ヤフーニュース編集部によるニュースの掲載判断、タイトル付けおよび関連記事の選定にある。人力ならではのニュース配信体制は、他の追随を許さない。
※従来、ヤフーニュースは「Yahoo!トピックス」というアプリからチェックすることができたが、この5月で「Yahoo!トピックス」アプリはサービスを終了し、新しくリリースされたこの「Yahoo!ニュース」アプリが後継となる。
SmartNews
現在、ニュースアプリでトップを走っているのがSmartNewsだ。
2013年10月に200万ダウンロードを突破し、2014年2月に300万ダウンロードを達成。右肩上がりの成長を続けている。
ヤフーニュースとの差別化ポイント
- あらかじめコンテンツを端末にダウンロードするSmartモードで快適な記事閲覧を実現
- 「違い棚方式」の独特なレイアウトで、アイキャッチ画像とタイトルの一覧性を両立
- ソーシャルメディアの解析により、掲載ニュースを選別
- チャンネルとして特定メディアを購読可能
グノシー
グノシーは、2014年2月末の大幅アップデートで素人目にはほぼ別アプリになった。興味関心に応じた記事を集めてくるアプリから、時事ニュースを提供するコンセプトを前面に打ち出すニュースアプリに変化。
2014年3月上旬のダウンロード数は180万を突破。3月15日からウルトラマンが出演するCMを流している。
ヤフーニュースとの差別化ポイント
- ソーシャルアカウント、記事の閲覧履歴を解析し、独自アルゴリズムにより記事をレコメンドする(朝刊・夕刊/マイニュース)
- アイキャッチ画像を大きく表示
- チャンネルとして特定メディアを購読可能
- テレビ番組情報あり
LINE NEWS
LINE NEWSは、言わずと知れたコミュケーションアプリ「LINE」のファミリーアプリ。ニュース編集部があり、人力でニュースを集めて編集し、タイトル付けもおこなっている点など、ヤフーニュースと共通点は少なくない。
ヤフーニュースとの差別化ポイント
- 女性向けカテゴリが充実
- ゲッティ・イメージズなどの高品質画像をアイキャッチに使用
- 記事は複数媒体からの引用し、コンパクトにまとめたもの(各媒体にリンク)
- 「続報中」カテゴリで、事件・テーマごとに記事をまとめ読み可能
NewsPicks
NewsPicks(ニューズピックス)は、投資銀行出身者らが立ちあげた企業からリリースされている経済情報に特化したソーシャルニュースアプリ。iOS版に加え、3月19日にAndroid版がリリースされたばかりだ。
ヤフーニュースとの差別化ポイント
- 基本的に経済情報に特化している
- 各業界の著名人や友人、業界別ロボットをフォローすることで、ニュースが選別される(Twitterのリスト機能と似ている)
- ニュースに業界の識者やビジネスパーソンらが記事をピックアップしコメントすることで、まとめコンテンツ化している
- 有料記事の購読機能
vingow news
Vingow(ビンゴー)は、自動要約機能やタグによる記事収集がセールスポイントのニュースアプリだ。2014年3月にiPhone版とWeb版がリニューアルし、ビジネスユースをメインに据えていく方向性を示している。特定の狭いジャンルの情報を漏らさず追い続ける、狭く深いタイプの情報収集アプリ。
ヤフーニュースとの差別化ポイント
- 50万を超えるタグを検索しフォローすることで、タグに関連するニュースや記事を収集する(Googleアラートと似ている)
- 内蔵ブラウザに関連タグが表示され、興味関心を広げることができる
- 記事を3パラグラフで要約する機能あり(オフにすることも可能)
Kamelio
この記事で紹介しているアプリの中では最後発のKamelio(カメリオ)。後発であるがゆえ、先行者をよく研究した上で開発されたことがよく分かる出来になっている。vingowと似た設計思想の情報収集アプリだ。リリースされて日が浅くiPhoneアプリのみのため、ユーザ数は少ないものの、光るものがあるためここで紹介しておきたい。
ヤフーニュースとの差別化ポイント
- 100万以上のテーマ(キーワード)の中から興味のあるテーマをフォローし、関連する記事を収集する
- 記事中に関連テーマを表示
- テーマを探す場合、キーワードを入力すると関連するキーワードを多数表示してくれる
- 好みを学習し記事をレコメンドする
- 関連記事を時系列で遡れる
参考:雑誌タイプのアプリ
アプリを厳密にジャンル分けすることは難しいが、ニュースアプリというよりも、雑誌(マガジン)アプリと表現した方が良さそうなのが、「Flipboard」と「Antenna」だ。そのため、ここでは詳細の説明はしないが、ニュースアプリとしての性質もあるので合わせて紹介しておく。
ニュースアプリが注目される本質的理由
ニュースアプリが注目される背景として、ヤフーニュースを倒せるかもしれない、という状況があることは前述したとおりだ。
だが、ヤフーニュースを倒す倒さないといったプロレス的な話題は、あくまで本質の表面をなぞったものに過ぎない。
では、ニュースアプリに熱い視線が集まる本質的な理由は何なのか。筆者は、大きく分けて3つの理由を提示しておきたい。
1. スマホユーザの急激な増加
まず、大前提として、ニュースアプリを利用するユーザ層が拡大してきたことが理由のひとつとして挙げられる。ここ3年余りで、スマホがどれだけ普及したか、説明するまでもないだろう。
2. 端末の品質向上、通信環境の改善
つぎに、スマホの平均的な品質が向上してきたことと、通信環境が改善してきたことが挙げられる。スマホのスペック、通信の高速化など、快適にアプリでニュースを読む環境が整ってきた。
3. ユーザのアテンション(注目)を集めることが可能
上記2点はニュースアプリ普及の下地、キャンバスとなる要素。キャンバスがあっても、そこに絵を描きたいという欲求がなければ画家は生まれなかっただろう。
その欲求とは何か。
一言で言えば、それは「金」だ。ニュースアプリは金の卵になりうるのだ。
なぜならば、ニュースアプリは、スマホ画面の中でユーザのアテンションを集めつづけることが可能なタイプのアプリだからだ。
そもそも、新聞、ラジオ、テレビなどのマスメディアで主要なコンテンツでありつづけたのは「ニュース」だった。それは視聴者の強いニーズの裏返しでもあった。
同様に、スマートフォンというメディア機器を通してニュースを消費したいという需要は強烈に存在するはずであり、実際にそうであろうことを否定する人はあまりいないだろう。
そうだとすれば、スマホという身体化したと表現しても誇張にはならないであろうパーソナルな端末上で、ユーザのアテンションを集めることが可能なニュースコンテンツを提供するアプリには、ビジネス面で非常に大きな可能性があるわけだ。
ニュースアプリがもたらす付加価値、そして勝つのは誰だ
ユーザ、端末、通信環境といった基礎条件は揃ってきた。あとは、どのニュースアプリが多くのユーザを獲得し、大きなシェアを握ることになるのかという局面に差し掛かってきている(マスを狙うなら、という前提の話だが)。
ニュースアプリがもたらす付加価値
勝者を占う上で、ユーザ目線から重視しておきたいのは、各ニュースアプリがユーザに対してどのような付加価値を提供してくれるのかという視点。
筆者は先ほど、各ニュースアプリのヤフーニュースとの差別化ポイント、つまりは各ニュースアプリの付加価値を数個ずつ取り上げた。実は、それらは以下の3つの観点から選び出したものだ。
- 快適性:モバイルにおけるニュース消費の快適さという付加価値をつける
- ニュースの選別:アグリゲーション(収集・集約)・キュレーション(選別・重みづけ)による付加価値をつける(大量の情報を全ては追えない)
- ニュースの加工:コンテンツの内容を改変したり、追加情報をプラスすることで付加価値をつける(いかに効率よく有益なニュースを提供するか)
ニュースアプリは、ニュース記事を制作するわけではない。ニュース記事をアグリゲーションし、キュレーションし、モバイルユーザ向けに配信する媒体だ(ときにはニュースを加工するケースもあるが)。
それゆえ、大量の情報を追い切れないし追う必要もないユーザに対して、効率よく有益なニュースを配信し、快適にニュースを読ませることが、その存在価値となる。そのような視点から、各ニュースアプリを比較してみると新たな発見があるはずだ。
勝ち残るのは誰だ
では、紹介したアプリの中で最後に勝ち残り、王者ヤフーニュースへの挑戦権を得るのはどのアプリなのだろうか。
最有力:SmartNews
今のところは、SmartNewsがダウンロード数とユーザ評価の面で一歩抜けていると見てよいだろう。Smartモードによる閲覧の快適性は特筆に値する。リリース当初は記事コンテンツをSmartNewsのサーバにダウンロードした上で配信していたため、著作権絡みの問題でWebメディアとの軋轢が生じたが、アップデートでコンテンツ取得方法を変更し、懸念は薄らいだ。ソチ五輪中は読売新聞が公式チャンネルを開設するなど、オールドメディアにも存在を認められつつあると評してよい。
追い上げる二番手:グノシー
SmartNewsを追い上げる二番手は、グノシーだ。大幅にアプリの内容を変更した点が従来のユーザの間で賛否両論を巻き起こしている。レコメンド機能というグノシーならではの特徴を目立たなくさせたのは、一般大衆への普及を狙ったものとみて間違いないだろう。強みを薄め、テレビCMに資本を投下する手法が功を奏するのか、こちらも要注目だ。
最強の後ろ盾を持つ伏兵:LINE NEWS
また、LINE NEWSがどこまで伸びるかも気になるところ。ダウンロード数を公表していないところから察するに、LINEとしてはユーザ獲得の面で期待通りの結果を出していないものと思われる。アルゴリズムによるキュレーションではなく、編集部を設置し、独特のニュース編集方針を打ち出している点が面白い。LINEという強烈なバックグラウンドをどこまで活かしきれるか、目が離せない。
専門紙:NewsPicks、Vingow、Kamelio
NewsPicks、Vingow、Kamelioは、ヤフーニュースと直接対決するものではない。ヤフーニュースやSmartNews、グノシー、LINE NEWSが一般紙だとすれば、それらは専門紙的な立ち位置の媒体であるためだ。ヤフーニュースなどと併用する使い方が多くなりそうだ。
やはり、ヤフーニュースが最強か?
筆者は、久しくヤフーのニュースアプリを使っていなかった。
今回、この記事を執筆するにあたって改めてヤフーニュースアプリを使ってみたが、その完成度の高さはかなりのレベルに達していると感じた。慣れ親しんだ短いニュースの見出し、関連記事の選定などは他を凌駕している。PCでヤフーニュースをチェックしてきたユーザの立場からすると、これさえチェックしておけば安心な気がしてくるだろうし、それは間違いではない。
その一方で、ニュースアプリの話題がニュースサイトや個人ブログなどのメディアで頻繁に取り上げられるにもかかわらず、「Yahoo!トピックス」や「Yahoo!ニュース」といったヤフーニュースアプリの名前を見かけることは多くない。取り上げられる回数が、サービスの質に比例していないのだ。
「何かがおかしい」と感じてはいた。しかし、考えてみるとヤフーニュースアプリがメディア上であまり注目されないのは当然だ。なぜなら、ヤフーニュースの存在が抜きん出すぎているからだ。当たり前のことを改めて話題にするまでもない。
だからこそ、オンラインニュースの王者であるヤフーニュースを脅かすかもしれないニュースアプリたちに、一種の期待がかかっているのだろう。スポーツの世界でいうジャイアント・キリングを、観衆は目撃したいのだ。
下克上は起きるのか?それとも、ヤフーが地位を守り続けるのか?
答えは、そう遠くない日に明らかになるはずだ。