事件の容疑者が弁護を受けられるのは法治国家の大原則です。警察や検察といった権力機構は時に暴走し、無実の人を犯人に仕立て上げてしまうことがあり、法による秩序を守るためにも、どんな犯罪者にも弁護を受ける権利が認められなければなりません。
しかし、弁護士は時に明らかな犯罪者を無罪にするために戦わないといけません。そんな弁護士の葛藤について描いたのが、映画『リンカーン弁護士』です。ロサンゼルスで刑事事件を専門に担当している弁護士がその腕を買われて、ある富豪の息子の事件の冤罪を晴らしてほしいと依頼が舞い込みます。普段は低所得の犯罪者の弁護ばかりしている主人公に転がり込んだ大金を稼ぐチャンスですが、依頼人が本当に冤罪なのかどうかを巡り、弁護士にとっての正義とは何かを葛藤する物語です。
弁護対象が犯罪者であったとしても
リンカーン・タウンカーを乗り回す弁護士のミック(マシュー・マコノヒー)は、ある日、不動産業者の一人息子・ルイスの性犯罪事件の弁護の話を持ちかけられます。普段は低所得者の犯罪弁護を手掛けることが多いミックは、大金を稼ぐチャンスに胸を躍らせこの依頼を引き受けます。事件当時の状況をルイス本人から聞き、見事な戦略で裁判を有利に進めるミックですが、調査員のフランク( ウィリアム・H・メイシー)とともに事件を洗っているうちに、かつて自分が担当した性犯罪事件に酷似した点に気が付きます。
その過去の事件当時、ミックは起訴された男性の弁護を担当したのですが、死刑相当の求刑で終身刑を勝ち取り、依頼人の命を守ったと自負していました。しかし、ルイスの事件との類似性に気が付き、その事件も冤罪で、自分は無実の人間を刑務所送りにしてしまったことに気が付きます。ルイスはそのことを知っていて、ミックに弁護を依頼したのです。
ルイスはなんと、ミックに自分が事件を起こしたと白状しますが、そのことをバラせば弁護士の守秘義務違反となることでミックは葛藤します。弁護士の義務として彼の弁護は全力でやらねばならない、しかし、犯罪者を野放しにしていいのか。そこで、ミックはある作戦を立てるのです。
自費で弁護士を雇えない人のために国選弁護制度も用意されており、社会の秩序を守るためにも、どんな犯罪者でも弁護を受ける権利は認められなければなりません。実際、ミックは犯罪者の弁護ばかりをしている男ですが、それによって法の倫理を守っているという自負も持っています。
しかし、自分の依頼人が明らかに犯罪を犯したと知った時、弁護士とて葛藤します。しかも初犯ではなく、常習犯であることもわかっていますから、無罪にしてしまえば、新たな犠牲者が出ることは確実。そんな時、社会の秩序を守るためにミックがどんな行動を取るのかが本作の見所。法治社会を守るためには、法を守るだけでは駄目な時があるということをこの映画は描いているのです。
マシュー・マコノヒーの成長を感じる作品
本作の原作はマイクル・コナリーの同名小説。コナリーはハードボイルド犯罪小説やミステリが得意な作家で、レイモンド・チャンドラーの影響を強く受けています。ジャーナリスト出身でピューリッツァー賞候補になったこともあり、LAタイムスで犯罪担当記者を経験するなど、事件の現場をよく知る人間です。本作はコナリーの代表作の1つで、小説ではシリーズ化もされています。
本作で主人公の弁護士ミックを演じたのはマシュー・マコノヒー。セクシーな男優として有名ですが、彼の出世作は『評決のとき』という法廷サスペンス映画で、弁護士役を演じていました。『評決のとき』では新進気鋭の俳優で初々しさも残っていた彼ですが(それが新米弁護士というキャラクターにマッチしていましたが)、本作での「ちょいワル」な敏腕弁護士役もとても板についています。
そんな彼の役者としての成長も本作の見所。マシュー・マコノヒーのはまり役の1つだと思いますので、原作に合わせて是非シリーズ化してほしい作品です。
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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部