モノクロ映画のヒロインが現実に飛び出す、映画への愛を描いた大人のメルヘン『今夜、ロマンス劇場で』

モノクロ映画のヒロインが現実に飛び出す、映画への愛を描いた大人のメルヘン『今夜、ロマンス劇場で』

フィクションのキャラクターに恋したことはありますか。

それは子供じみた妄想なのかもしれません。けれど、その想いが純粋なら、それは馬鹿にされるべきことではないと思うのです。映画『今夜、ロマンス劇場で』は、映画の中のキャラクターと恋に落ちる物語をメルヘンチックかつロマンティックに描いた作品です。

純粋な恋に貴賤はありません。相手が映画の中のキャラクターだろうと、純粋な想いは大切なのだということを、てらいなく真っ直ぐに伝えています。

モノクロ映画のヒロインが巻き起こす大騒動

余命幾ばくもない老人の男性が入院しています。彼の手元には、映画の脚本の手書き原稿があります。それは、かつて彼が映画化しようとして果たせなかったものでした。老人は、看護師に思い出話を始めます。

映画監督をこころざし、撮影所で助監督として働く牧野健司(坂口健太郎)は、モノクロ映画のヒロイン美雪(綾瀬はるか)に心を奪われ、彼女に会うためにロマンス劇場という名の映画館に通い続けています。すると、美雪がスクリーンから飛び出して健司の前に現れます。その姿は映画の中のモノクロのまま。健司は人に見られてはまずいと自分の家に彼女を連れて行くことにします。

美雪は映画の中の勝ち気なお姫様そのままの性格で、健司を勝手に下僕に任命し、好奇心旺盛なこともあり、外の世界に連れ出せと命じます。健司は彼女を撮影所に連れて行くのですが、美雪がスター俳優に殴ってしまい、大騒動に巻き込まれることに。しかし、そんな彼女に振り回されるうちに健司は美雪のことを本気で愛するようになります。

ある日、撮影所が若手にチャンスを与えるために助監督から新しい脚本を募ります。健司は自分と美雪との物語を書くこと決意。しかし、なかなか良い結末を思いつくことができません。そんな中、美雪は健司にある秘密を告白します。それは、人に触れられると消えてしまうということ。美雪も健司を愛するようになりますが、触れてしまうと消えてしまうため、愛する2人は決して抱き合うこともできないのです。

愛する人に触れられないというつらい想いをさせたくない美雪は、健司にいっそ抱きしめて自分を消してくれと願います。だが、健司はその願いを聞き入れず、ずっと一緒にいようと言うのです。

そして現在、入院する老人のそばには以前と変わらぬ若さのままの美雪がそばにいます。老いた健司が最期の瞬間を迎える日、2人はある行動を取るのです。

映画への愛

テレビ普及以前の映画全盛期の頃の古き良き時代への憧憬がたっぷりと詰まっており、映画を愛する映画人による、映画への愛の物語でもある本作。映画監督を目指す青年が、映画のヒロインに恋するという話をストレートにロマンティックに表現しているのが好印象です。主人公の健司を演じる坂口健太郎が、夢に真っ直ぐな純朴な映画青年を好演しており、はまり役と言っていいでしょう。

そして、ヒロインの美雪を演じた綾瀬はるかも、映画の中のわがままヒロインというコケティッシュな役柄を爽快に演じています。彼女のコメディエンヌとしてのセンスが詰まっており、主人公のみならず、多くの登場人物を魅了するのですが、本作を観る観客もまた彼女に恋してしまうでしょう。

愛する人に触れられない切なさと永遠の愛の美しさ、そして映画への愛がたっぷり詰まった大人のためのメルヘンです。夢を忘れてしまった大人こそ、観て涙してほしい作品です。

動画配信サービスの「Amazonプライム・ビデオ」では、『今夜、ロマンス劇場で』が見放題です(2019年12月23日時点)。

構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部