20世紀から21世紀にかけて内戦を続けてきた国、コンゴ。
多くの日本人がその実情を知らないこのアフリカの国では、少年少女が兵隊として駆り出される悲劇が今も起きています。映画『魔女と呼ばれた少女』は、そんなコンゴの現実を徹底したリサーチをもとにつくられた作品です。少女兵として反政府組織に拉致された少女が、数奇な運命をたどり、魔女と呼ばれ、儚い愛を見つける過程をリアルとファンタジーを織り交ぜて描いています。
コンゴの子ども兵の現実
コンゴの小さな村で両親とともに暮らしていた12歳の少女・コモナは、ある日突然やってきた反政府組織に両親を殺すよう命じられ、兵士にさせられるために拉致されます。劣悪な環境のジャングルで過酷な訓練を受けさせられたコモナは、ゲリラ戦に参加して生還するのですが、その際に亡霊に導かれ、敵の位置が把握できるという体験をします。
その体験によって勝利を呼び込むことから、彼女は魔女と崇められ、反政府組織のリーダーであるグレート・タイガーに所有されることになります。コモナはコルタンと呼ばれるレアメタルの採集の仕事をあてがわれ、大事にされるのですが、いつ殺されるかもわからない身分であることには変わりなく、自由を求めてマジシャンと呼ばれるアルビノの少年と組織を抜け出すことを決意します。
いつしか2人には愛が芽生え、マジシャンはコモナに求婚するのですが、この地域の求婚を断るための口実、白い雄鶏を見つけてくれたら結婚してあげるとコモナは告げます。コンゴでは白い鶏は大変珍しいもので、簡単には手に入らないことからきている口実だそうですが、マジシャンは苦難の末に白い雄鶏を見つけ、コモナもそんな彼の熱意にほだされて結婚を決意します。
つかの間の幸せを享受する2人ですが、グレート・タイガーの追っ手が迫り、やがて新たな悲劇がコモナを襲うのです。
コンゴの子ども兵の過酷な現実を徹底したリアルな描写で描き、一方で亡霊の存在など幻想的な演出を織り交ぜ、1人の少女の数奇な運命を描き出している本作。ラブストーリーとしても秀逸で、心温まるシーンもあり、過酷な体験とのギャップが観る人の心を掻きむしります。
主演のラシェル・ムワンザは、アフリカ人として初めてベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞。マシンガンを持ち戦うタフな姿と、初めての恋に戸惑う無垢な姿の両極を自然体で演じ、見事なヒロイン像を作り上げています。
コンゴの貧困と先進国の意外なつながり
本作には、コルタンと呼ばれる黒い金属を集めているシーンがあります。コルタンとはハイテク産業で用いられるレアメタルの一種で、スマートフォンの部品にも使われているほど、我々の生活にも関わりのあるものです。
コンゴには世界のコルタンの60〜80%もの埋蔵量があると言われており、これが武装勢力の資金源になっているとも言われています。そしてその採掘をさせられているのは、映画でも描かれているように子どもたちや貧しい人々なのです。他にもタンタルというレアメタルもコンゴに多く埋蔵されており、それらの金属は世界のハイテク産業に欠かせないものとなっており、需要が高まれば高まるほど武装勢力もうるおい紛争が拡大するという構造になっているのです。
死者540万人以上-日本のメディアは報じない、コンゴ紛争とハイテク産業の繋がり(ハフポスト)
コンゴの現実は、日本人にとって遠いことのように思えますが、決して無関係ではありません。コンゴの貧困と我々の生活は複雑なグローバル社会の中でつながっており、本作は我々の生活の豊かさが何を犠牲にして成り立っているのか、考えさせられる映画でもあります。物語の完成度の高さもさることながら、そうした点でも非常に優れた一本です。
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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部