ワープロ登場の以前にアルファベット語圏で幅広く使用されていたタイプライター。20世紀初頭から中頃を舞台にした映画などでよく登場するので、観たことがある人も多いでしょう。
独特のタイプ音が格好良く、形もアンティークでおしゃれな印象を与えます。欧米社会では文章の清書や速記のために幅広く用いられていました。
タイピングを専門とするタイピストという職業もかつて存在し、主に女性が就く仕事として知られていました。タイピストはかつて秘書や電話の交換手などと並ぶ、働く女性の象徴的な職業だったと言われています。
映画『タイピスト!』は、文字通りそんなタイピストを題材にした作品です。田舎で育った取り柄のない女性が、唯一の自慢であるタイプの早打ちを磨き、世界最速のタイプライターへと駆け上がるサクセスストーリーです。
自立した人生を送るため、タイピング早打ち大会に挑む
田舎で父の経営する雑貨店で仕事をしているローズは、父から地元の青年との縁談を持ちかけられていました。ローズは父の言いなりにならず、自分の人生は自分で決めたいと願い、保険代理店の秘書の面接を受けることにします。ローズは秘書の経験はありませんでしたが、タイプライターの早打ちだけは自信があり、その早打ちを披露した結果、1週間の試験採用を掴み取ります。
ローズは秘書としては優秀ではありませんでしたが、その早打ちの才能に目をつけた保険代理店の経営者・ルイは、秘書の仕事を続けたいならタイプライターの早打ち大会で優勝してみせろと条件を出します。
最初の大会は、わずか2文字差で破れてしまったローズ。そこからルイとともに早打ちの猛特訓を開始。ブラインドタッチを習得し、難しい単語にも対応できるよう文学作品を読み漁る毎日。いつしかローズとルイは惹かれ合うようになっていきます。そして、ローズはフランスの早打ち大会を勝ち上がり、世界大会への切符を手にするのです。
しかし、一躍時の人になったローズにはタイプライター会社のスポンサーやバックアップもつき、ルイとは疎遠になっていきます。これでいいのかと自問自答する2人ですが、再会することなく世界大会の日を迎え、強敵・アメリカ代表との決勝戦に望むのです。
フランス映画らしい、華やかな恋模様を交えて、女性のサクセスストーリーを描く本作。20世紀中頃では働く女性は一般的ではなく、就ける職種にも限りがあったのは、日本でもフランスでも変わりません。そんな時代に、自分の人生を切り開いていくローズの姿に女性ならずとも共感を覚えるでしょう。
働く女性の代名詞だったタイピスト
タイピストというのは、当時の女性にとっての花形の職業。世界一のタイピストになるというのは、ある意味では世界一のワーキング・ウーマンになるということでもあったのかもしれません。今では女性が働くことも当たり前の時代になりつつありますが、本作はかつて女性の社会進出に貢献した先達の戦いを描いた作品と言えるでしょう。
働く女性はもちろん、自分の運命を自分の力で変えていく主人公の姿に男性でも応援したくなるはずです。働くすべての人を後押ししてくれる素敵な作品です。
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構成・文:杉本穂高