一番怖いのはゾンビでも魔女でもなく人間──映画『パラノーマン ブライス・ホローの謎』

一番怖いのはゾンビでも魔女でもなく人間──映画『パラノーマン ブライス・ホローの謎』

アメリカのアニメーション作品と言えば、ディズニー、そして『ミニオンズ』のイルミネーションが有名ですが、最近勢力を伸ばしているライカという会社があります。

ライカは、日本でも昨年末に話題になった『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』を手がけたスタジオで、ストップモーション・アニメーションを制作する会社です。3Dプリンターなどの最新技術を取り入れ、人形によるストップモーションに新しい風を吹き込んでいます。

そんなライカが2013年に発表したのが『パラノーマン ブライス・ホローの謎』です。『KUBO』で監督を務めたトラヴィス・ナイトが製作し、アカデミー長編アニメーション部門にノミネートした作品です。

人形とは思えないほど表情豊かなキャラクターたちの愉快さ、動きの巧みさに驚かされますが、物語の奥深さもなかなかのもの。魔女狩りとゾンビものを融合させ、現代にも通じるテーマとして深く掘り下げています。

現代も魔女狩りはおこなわれている?

ゴーストが見えて会話もできる少年・ノーマンは、そのせいで周りから変人扱いされ、学校でいつもいじめられています。ある日、ノーマンは同じく死者と会話できる叔父から、魔女の魂が町に封印されていることを知らされます。魔女の魂は悪霊を使って町を滅ぼそうとしており、ノーマンの家系が代々封じ込めてきたことを知ったノーマンは、意思を受け継ぎます。

しかし、封印は上手くいかず魔女によって犠牲になった7人の死者がゾンビとして蘇り、町はパニックに陥ります。町の人々はゾンビを見つけると群衆で襲いかかり、人々は暴徒と化していきます。そして、ノーマンは魔女がどのように死んだのか真相を突き止め、この町でかつておこなわれた魔女狩り裁判のことを知ってしまいます。

本作の舞台となるブライス・ホローという架空の町は、マサチューセッツ州にある設定ですが、町のモデルになっているのはダンバース(昔の名前はセイラム)でしょう。物語全体のモチーフになっているのは、セイラムの魔女裁判です。

セイラムの魔女裁判とは、無実の村人が魔女であるという疑いをかけられて裁判で有罪となり、多くの村人が絞首刑となった事件です。判決の根拠はまったく科学的なものではなく、半ば集団ヒステリーのような状態で次々と刑が執行されていきました。

群衆は時に、暴走するとこのような虐殺を引き起こしてしまうもの。セイラムの魔女裁判はその例として語り継がれ、多くの物語で引き合いに出されています。

本作は現代が舞台ですが、魔女狩りの怖さは現代にも通用します。スケープゴートを徹底的に叩く現象はネットではいたるところでおこなわれているのを見ると、現代も中世も人間というのはあまり変わりないのだなと思わされます。

つい最近もメキシコで、SNSで「子供を誘拐した」と嘘を流された2人の男性が群衆に焼き殺されるという事件がありました。警察がこの2人は軽犯罪を起こしただけだと何度も説明しても群衆は聞く耳を持たず、警察署の前で2人を焼き殺してしまったのです。

【フェイクニュースを超えて】 SNSのうわさのせいで焼き殺され、メキシコの小さな町で(BBCニュース)

恐怖を認める勇気だけがそれを克服できる

メキシコで起きた事件は、セイラムの魔女裁判と同じようなことが現代でも起きるのだと思わされます。

映画では、復活したゾンビたちが何か危害を加える前から、町の人々は彼らの見た目だけで恐ろしいものと認定して攻撃を加えます。それはエスカレートし、誰もが寄ってたかって彼らを殺そうとします。

この町に封印されている魔女は、実はかつて同じように罪を被せられて殺された普通の女の子であることをノーマンは突き止めます。つまり、過去にこの町で起こったことと同じことが、現代でも進行しているということをこの映画は描いているのです。

恐怖に囚われた人間は何をするかわからない。それを克服するには、やっぱり勇気を振り絞るしかありません。人は自分と違うものを恐れて差別し、時には悲劇も発生しますが、それを乗り越えるためには勇気を出し、彼らと会話して理解を深めるしかない。そんな大切なメッセージがこの映画にはあります。

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構成・文:杉本穂高

編集:アプリオ編集部