なぜ戦争がこの世界からなくならないのか。答えは一つではないのでしょうが、この映画は一つの回答を見せてくれるように思えます。
ニコラス・ケイジ主演の映画『ロード・オブ・ウォー』は、フリーランスの死の武器商人としてのし上がる男を描いた作品で、複数の実例を組み合わせて作られた物語です。
幼い頃に両親に連れられ、ニューヨークにやってきた移民の男性が、銃の売買に才能を見出し、のし上がっていく様をスリリングに、社会への皮肉をたっぷり込めて描いています。家族想いの男がなぜ死の商人になったのか、一度その世界に入ってしまうと、抜けたくても抜けられず、ズブズブと深い闇にはまり込んでいく男を通じて、戦争の虚しさを訴えかけてくる作品です。
冷戦崩壊で余った銃を売りさばく
ウクライナで生まれ、冷戦時代にニューヨークへ移住してきたユーリー(ニコラス・ケイジ)は、ある日、レストランでマフィアの銃撃を目撃します。彼はショックを受けるどころか、ひらめきを感じ、武器の売買を生業にしようと決意します。
家族はリトル・オデッサという貧しい地区で暮らし、家族で小さな食堂を経営していますが、客入りは芳しくありません。ユーリーは弟のヴィタリー(ジャレッド・レト)を相棒に武器のビジネスに乗り出します。ベルリンの武器見本市に足を運ぶもプロの商人に相手にされず、しばらくは紛争地帯を巡って少額の武器売買をしながらしのいでいたユーリーですが、レバノンで米軍が置いていった大量の武器を入手し、それを売却することで巨額の利益を得ることに成功します。
そこから頭角を現していったユーリーは、次々と大口の顧客を獲得。インターポールの捜査官・バレンタイン(イーサン・ホーク)に目をつけられますが、要領よく逃げ続けます。しかし、弟のヴィタリーが麻薬に溺れてしまい、ユーリーは弟を施設に入れることにします。
一人でビジネスを仕切ることになったユーリーは、それでも歩みを止めずに世界の紛争地帯に足を運びます。稼いだ金で親孝行し、美しい妻を手に入れ、子どもも授かります。やがて冷戦が終結すると、彼のビジネスは一段と加速していくようになります。
旧ソ連のウクライナには、冷戦終結で用済みとなった大量の武器が放置されていました。ユーリーはそれを叔父の少将から買い取り、世界中に売りさばきます。敵対する両陣営に売りつけさえして、世界の紛争が資本主義の理論によって動くようになるのをユーリーは実感していきます。しかし、順風満帆に見えた彼のビジネスにも徐々に捜査の手が詰め寄り、さらに内戦地のリベリアの狂気的な独裁者に追い詰められてしまいます。
ユーリーはフリーランスの武器商人として世界中で商売し、巨額の資産を築きますが、彼は世界一の武器商人というわけではありません。世界で一番武器をたくさん売っているのはアメリカ政府であるとユーリーは言います。バレンタイン捜査官に対しても、ユーリーは、残念ながら自分は必要とされているのだと言います。政府が公然にはできないことを請け負っていたユーリーは、資本主義の世界で武器の売買がいかに必要とされてしまっているのかを知り、自分を必要悪だと言うのです。
家族を失っても、彼はビジネスをやめることができなくなります。虚しさを感じながらも必要悪として、彼は武器を売り続けるのですが、そんな彼の姿にこの世界の大きな矛盾が集約されているかのようです。
冷徹だけど家族想いの武器商人
ユーリーは、自ら進んで殺しはおこないません。自分の武器で誰かに加担しないことをモットーにしていますが、彼は生命の重みをどう感じていたのでしょうか。武器を売れば、目の前の難民が殺されることをわかった上で、自分にはどうすることもできないことだと割り切る冷徹さがありながら、家族への愛は本物。矛盾しているような気がしますが、しかし誰でもそんなものかもしれません。
世界の知らない誰かが死んでも自分の人生に影響はありませんが、親しい人の死は悲しいものです。ただ、ユーリーの場合は、それと同じ感情を武器売買という場所で感じていたに過ぎないのでしょう。その意味で、彼はどこにでもいる普通の人間なのです。もし条件が揃ってしまえば、自分も彼と同じような道を歩んでしまうのかもしれない、この映画を観る人にそんな風に思わせる力がある作品です。
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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部