「男の義理人情や裏切りの話」と言えば日本のヤクザ映画を思い浮かべる人が多いと思いますが、これはフランスのお話。
『そして友よ、静かに死ね』は、まさに昔の日本の任侠映画のような物語。実話を基にした作品ですが、裏社会の友情と裏切りの物語は国境を超えて普遍的なものなのだなと実感します。
主人公はロマ族のモモン。少数民族であるために差別を受けた少年時代。唯一仲良くしてくれた白人のセルジュとは生涯の親友に。そして、その親友を脱獄させるために、一度は足を洗ったにもかかわらず再び犯罪に手を染めることになります。裏社会を命がけで生き延びてきた男たちにだけわかる、家族の絆よりも濃い男たちの深い友情をハードボイルドに描いています。
友情と裏切りが交錯する男たちの世界
かつて伝説のギャング団「リヨンの男たち」のリーダーとして名を馳せたモモンも、今は足を洗い、家族と平和に暮らしています。そこに親友のセルジュが逮捕されたというニュースが飛び込んできます。
モモンは家族の反対を押し切り、セルジュを脱獄させるために再び犯罪に手を染めることを決意。無事、脱獄は成功したものの、セルジュはスペインの麻薬組織を裏切っており、追っ手が殺しにやってきて、モモンの家族にも危険が及ぶようになってきます。
セルジュの娘が殺され、実行犯に復讐を果たすモモンとセルジュですが、麻薬組織のボスであり、かつての仲間であるニックと対面し、セルジュのある秘密をモモンは知ってしまいます。モモンはセルジュにとって生涯の親友。その親友が自分を裏切っているのかもしれない。家族に危険に晒してまで助けた親友は、果たして本当に信頼できるのか。モモンは自問自答の末にある結末を出すのです。
義理友情と家族を天秤にかけ、義理人情を取る昔気質の男、モモン。彼のセルジュに対する愚直なまでの信頼感が泣かせます。セルジュは彼の人生の中で一番最初にできた親友で、孤独な少年時代を救ってくれたヒーローのような存在なのです。映画は、現在と過去の回想を挟みながら展開しますが、2人が過ごした長い年月の友情は紛れもなく本物で、だからこそラストの結末が震えるほど切ないものになっています。
裏社会の友情を描くオリヴィエ監督は元警官
本作を監督したオリヴィエ・マルシャルは映画監督になる前は警官でした。夜勤で警官の仕事をしながら演劇を学び、映画などに登場する警察関係の描写の監修の仕事をするようになり、そこから自らも俳優、監督を務めるようになりました。
元警官が、ギャングの友情の美しさを描くのは奇妙なことのように思えますが、裏社会の人間と間近に接したことのあるオリヴィエ監督だから理解できる彼らの心情があるのでしょう。警官とギャング、立場は180度違いますが、お互い命をかけた仕事をしているので、どこかで共鳴できる部分があるのかもしれません。
また、主人公のモモンはロマ族という設定ですが、ロマはフランスに限らずヨーロッパの様々な国で迫害を受ける少数民族です。かつてジプシーと呼ばれた移動型の民族である彼らはヨーロッパ中に点在しています。ナチスドイツによって虐殺された歴史もあり、戦後も多くの国で差別が続いています。そうした民族差別を受けた苦しみがあったから、モモンはかばってくれたセルジュに心を許していたのでしょう。
この男たちの切ない友情の終焉は、ヨーロッパ社会の歪みも背景にあるのかもしれません。そう考えると、映画の切なさがより一層増すような気がしてきます。
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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部