日本でもこういうアクション大作ができるんだ!
アクション大作映画は、ハリウッドの予算規模でないと面白いものはなかなか作れません。しかし、『いぬやしき』は日本映画でありながら、大迫力のアクション・エンタテインメントとして見事に成立しています。本作は、奥浩哉の同名漫画が原作で、漫画の実写化という難しいハードルを超え、さらに一本の映画として完成度が高く、ハリウッド映画にも負けない娯楽映画として成立しています。
冴えない老け顔サラリーマン VS 孤独な高校生
冴えないサラリーマンで、老人のような風貌の犬屋敷壱郎(木梨憲武)は家族に馬鹿にされ、職場でもお荷物扱いされる毎日。ある日、彼は夜の公園で不思議な光に包まれ、大爆発に巻き込まれて死んでしまいます。それは宇宙人が引き起こした事故だったのですが、宇宙人は事故を隠蔽するために犬屋敷をサイボーグに改造して蘇らせます。
その日から、サイボーグとして特殊な力を得た犬屋敷は、難病で苦しんでいる人を救うなど、人を助けるためにその力を使います。人の役に立てることが嬉しくて、いつも馬鹿にされてばかりだった犬屋敷は死んでサイボーグになったことで、初めて生きている実感を得るようになります。
しかし、宇宙人の事故に巻き込まれたのは犬屋敷だけではありませんでした。同じ場所にいた高校生の獅子神皓(佐藤健)も同じ力を持つサイボーグとなりますが、彼はその力を他人のためには使おうとしません。
獅子神は、貧しい母子家庭で友人は引きこもり気味の安堂直行(本郷奏多)だけ。彼は、直行をいじめる連中を叩きのめし、癌となってしまった母の病気を治療するなど、身の回りの人々のために力を使うのですが、どこか危うい破壊衝動を抱えています。
獅子神はそんな破壊衝動をもてあまし、自分が持てない幸せを妬んだのか、平凡な中流家庭を皆殺しにしてしまいます。その犯行が警察に知られ、追われる身となった彼は、自分に密かに想いを寄せていた同級生・渡辺しおん(二階堂ふみ)の家に隠れることにしますが、特殊部隊の突入でしおんを巻き添えにしてしまい、社会に絶望してしまいます。そして、彼は日本を全滅させようと企み、犬屋敷と全面対決となるのです。
クライマックスの2人の決戦は新宿が舞台なのですが、歌舞伎町や新宿駅前で大量のエキストラを動員した撮影を敢行して迫力あるアクションシーンを創り上げています。また、新宿は高層ビルもあれば雑多な繁華街もあり、街の特徴を活かしたアクションを取り入れており、普段見慣れた景色でハリウッド映画のようなすごいアクションが行われていることに感動します。新宿の高層ビル群を猛スピードを飛びまくる2人のアクションは、爽快感抜群です。
漫画の実写映画化請負人・佐藤信介
本作の監督を務めた佐藤信介氏は、近年では『キングダム』や『アイアムアヒーロー』など、漫画を原作にした映画作品を数多く手がけています。漫画の実写化は原作ファンから嫌われやすい傾向がありますが、佐藤監督は原作の良さを活かしながら、映画という別の表現媒体にまとめ上げるのが非常に上手く、高い評価を得ています。
また、本作の魅力はなんと言っても主人公の犬屋敷のキャラクターでしょう。冴えない、老けた中年が突然すごい力を持ってしまって、持ち前の優しさを発揮して人々を救う姿に共感せずにはいられません。そんなこれまでになかった中年ヒーローを演じたのは、とんねるずの木梨憲武。特殊メイクで見事に老け顔を作り、うだつの上がらない中年サラリーマンを飄々と演じています。まさにはまり役と言っていいでしょう。
とてつもない力を持ってしまった人の物語ですが、犬屋敷も獅子神も、本当にどこにでもいる僕らの隣人のような存在で、多くの人が共感できる作品です。ハリウッド映画のような迫力で、ハリウッドとは異なるスーパーヒーロー映画を観たい人におすすめの一作です。
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