同情よりもユーモアが人を救う、障害を笑いと感動で描いた映画『最強のふたり』

同情よりもユーモアが人を救う、障害を笑いと感動で描いた映画『最強のふたり』

フィクションやテレビ番組などで障害者は長い間、健気に頑張る存在、あるいは虐げられる存在としてばかり描かれてきました。

そんな障害の描き方に一石を投じ、明るいヒューマン・コメディとして作られたのが、映画『最強のふたり』です。実話をもとに、大富豪の障害者とスラム出身の黒人青年の友情を描き、同情的でも悲観的でもない視点で障害者を見つめ、多くの観客から共感を集めてフランス映画でありながら異例の大ヒットを記録しました。

フランスの人気コメディアン、オマール・シーの出世作であり、彼の個性が存分に生かされた楽しく心温まる作風が特徴です。

失業手当目当ての面接から友情が生まれた

大富豪で首から下が麻痺しているフィリップは、新しい介護スタッフの面接を行っていますが、みな「意識の高い、親切なこと」を言うばかり。そこに、失業手当給付のため、就職活動の実績作りのためだけに面接を受けに来たドリスがやって来ます。アシスタントの女性に色目を使い、障害のあるフィリップにもぞんざいな態度をとるドリスを、フィリップは気に入り、彼を雇うことにします。

介護経験のないドリスは、過酷な介護に戸惑いを覚えますが、豪邸の一室をあてがわれご満悦の様子。ドリスの仕事ぶりははっきり言って雑なのですが、彼は「障害者」としてではなく、1人の人間としてフランクに接するところをフィリップは気に入り、2人の間には次第に友情が芽生えます。2人は高級車を乗り回し、女遊びにでかけ、マリファナを吸うなど、悪いことも含めて生活を満喫します。

ある日、フィリップはドリスの後押しで想いを寄せる文通相手に会うことを決意します。しかし、障害者であることで落胆されることを恐れ、健常者だった頃の写真を相手に送り、待ち合わせ直前に逃げてしまいます。

フィリップはドリスを呼び出し、気晴らしに旅行に出かけることにします。パラグライダーに乗って大空を飛び、上手い食事を満喫して、豪邸に戻ると、そこにはトラブルに巻き込まれたドリスの弟が助けを求めてやってきました。貧困家庭の養子として育ったドリスは複雑な事情を抱えており、家族の助けに応じねばならない時がきたのです。

本作では、障害者は真面目な被害者とばかり描かれていません。むしろ、ドリスと一緒に馬鹿なことをたくさんやって遊んでいる姿をたくさん描いており、健気であることを押し付けるような描写はありません。人間だれであれ、息抜きは必要で不真面目なこともやりたくなるもの。そういう自由があるからこそ、救いのある人生なのに、私たちの社会はもしかしたら、障害を持った人たちにそうした娯楽の機会を奪っているかもしれません。本作は、そんな社会の風潮に対してコミカルに異議申し立てをしたのです。

どんな苦境でもユーモアを忘れない心が大事

本作は実在の人物をモデルにした作品ですが、監督の1人、エリック・トレダノは「苦境の中にあってもユーモアを忘れない姿勢」に惹かれたとインタビューで語っています。

空前の大ヒット!『最強のふたり』監督が語る 世界を変えるための“ユーモア” (cinemacafe.net)

実際に本人たちに話を聞いて脚本を書き上げたそうで、2人の実体験も反映されています。例えば、車椅子を改造してスピードを出せるようにするエピソードが登場しますが、これは本人たちから聞いた話をもとにしているそう。その他、ドリスが失業手当のためだけにサインをもらいに来るエピソードも本人たちの実体験を参考にしています。

以下の動画で、モデルとなった本人たちがインタビューに応じています。2人の友情は今も続いているそうです。

人生における幸せとは何かを見つけることのできる素敵な作品ですので、是非観てほしい1本です。

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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部