2008年、米投資銀行リーマン・ブラザーズの経営破綻から始まった「リーマンショック」は世界に深刻な金融危機を引き起こしました。その引き金となった住宅購入向けローン「サププライム・ローン」の不良債権化は、多くの中流・下流の家庭から住宅を奪いました。映画『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』は、そんなサブプライム・ローン危機により、住んでいた家を失った人々の過酷な現実を描いています。
郊外にマイホームを持つという、アメリカン・ドリームを多くの人に実現させたサブプライムローンが不良債権化した時、何が起きて、人々がどう苦しんだのか。そして、いかに他人を追い落とさねば生きていけない状況に追い込まれてしまったのかがよくわかります。本作は、ある意味アメリカン・ドリームの終焉を描いた作品と言えるでしょう。
アメリカは勝者による、勝者のための国
フロリダで母と小学生の息子と3人で暮らすデニス(アンドリュー・ガーフィールド)は、不況で住宅ローンを支払えなくなり、長年暮らした家を追い出されてしまいます。裁判所に控訴して時間を稼ごうとしますが、不動産ブローカーのリックによって住宅を差し押さえられてしまいます。行くあてのない一家はモーテル暮らしをすることになり、デニスはその状況から一刻も早く抜け出すために、自分を追い出したリックの仕事を手伝うことにします。
自分と同じ境遇の人間を生み出す仕事に就いたことを家族に隠したまま、自分でも葛藤しながらもデニスは才覚を発揮し、リックの右腕となっていきます。大金を手にし、マイホームも取り戻すことに成功するのですが、ある日、デニスは自分が家を差し押さえた男と鉢合わせてしまいます。家族を守るためには、この仕事しかない、しかし、自分と同じ境遇の人間を蹴落とすようなことをしていることにデニスは苦しみます。
そんなデニスにリックは、「アメリカは勝者の、勝者による、勝者のための国なんだ」と語ります。リックとて、昔は真っ当な不動産屋で、社会の仕組みに最適化した結果、こうなっただけなのだと言うのです。弱者を切り捨てないと生き残れない、そんな社会なのだとリックは語ります。そして、ある日、リックは大きなビジネスチャンスのため、偽造文書の提出をデニスに要求するのです。正直に生きるか、それとも汚いことをして勝者となるか、デニスは葛藤します。
この映画の舞台はフロリダです。フロリダは、アメリカ有数のリゾート地として知られていますが、貧困がはびこっており、家を持たずにモーテル暮らしを余儀なくされている人々がたくさんいます。本作のタイトルにある「99%」とは、1%の富裕層が富を独占し、99%の人々が搾取されていることを表しています。本作は、中間所得層が没落し、超富裕層と貧困層にくっきりと別れてしまったアメリカ社会の現状を赤裸々に映しています。99%の人々は、もはや夢を見ることも叶いません。2008年のリーマンショックは、アメリカン・ドリームを崩壊させたのです。
リーマンショックを描いた映画
リーマンショックを題材にした映画は、本作以外にもあります。サブプライム・ローンの問題点をいち早く見抜き、金融危機の到来を察知した投資家たちが主人公の『マネー・ショート 華麗なる大逆転』は、この金融商品がいかに複雑で、出鱈目な運用がなされていたかを皮肉を交えて伝えます。家を失った市井の人々を描いた『ドリーム ホーム』に対し、『マネー・ショート』は投資家たちの戦いがテーマ。金融危機がどのようなメカニズムで引き起こされたのかをわかりやすく学べます。
この2本を合わせて観ると、本作のような悲劇がどうして生まれてしまったのか、より広い視点で理解することができます。本作を観た人は是非とも『マネー・ショート』も観ることをおすすめします。
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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部