タブレット業界は、先日発表された「新しいiPad」の話題で持ち切りとなっている。「もうAndroidタブレットは終わった」といった声も聞こえてくるが、実際はどうなるだろうか。私はまだ逆転の目は残されていると考えている。
AndroidタブレットがiPadに対抗するには
Apple iPadの攻勢に対し、Androidタブレットのアプローチは主に3つに分かれる。
アプローチ1:価格による差別化
iPadよりも圧倒的に安い価格で攻めるというもの。ポイントは安かろう悪かろうではなく、安くてそこそこという「コストパフォーマンスの高いもの」であること。ユーザーにとっても、iPadと比較した際のメリットとして非常に分かりやすく、受け入れやすいアプローチだ。
昨秋から、AmazonのKindle Fireがこのアプローチで大ブレイク。あっという間にAppleに次ぐ第2位のシェアを獲得してしまった。
これに続けと、GoogleがASUSと組んで199ドルのNexus Tabletを開発中と噂されており、これが6月頃に出てくるようだと一気にシェアを獲得してしまうかもしれない。
途上国向けのタブレットも好調で、35ドルの「Aakash」や100ドルの「OLPC XO 3.0」などが話題になっている。
iPad2の値下げでAppleもけん制しているが、2012年におけるAndroidタブレットの主戦場はここになりそうだ。
アプローチ2:機能による差別化
Androidの自由度を活かして、iPadにはない機能を盛り込みアピールするというもの。これも分かりやすい差別化ができれば、ユーザーに訴求しやすい。
このアプローチでも存在感を発揮しているのがASUS。キーボード付きで人気のEee Pad Transformerシリーズなどが知られているが、特にインパクトが強かったのが、先日発表したPadfone。スマホ、タブレット、ノートPCとシーンに合わせて自在に形態を変えることができる新しいコンセプトの製品だ。
ASUS以外にも、専用のペンによる入力が可能なSamsungのGALAXY Note 10.1なんかもこのアプローチに類する。
このアプローチについては、細分化したニーズに適合するニッチな製品が多く、なかなか大ヒットとなるようなタブレットは出てこないかもしれないが、ユーザー視点で見ると面白い端末があるのはいいことなので、盛り上がることを期待したい。
アプローチ3:性能面で真っ向勝負
iPadは高性能なタブレットだが、さらにその上をいく性能で勝負するという戦略。これは非常に困難を伴う選択で、現にこのアプローチで幾多ものAndroidタブレットがiPadに挑み、惨敗を喫している。
この事実は、それだけiPadが高性能かつ手頃な価格を実現していることの証左であり、今回の新iPad発表でさらにそのハードルは高くなっている。
もしiPadと渡り合おうとするならば、性能で負けないためにApple並みの技術力を持ち、価格で負けないためにiPad並みの販売台数を確保するための下地が必要となる。
Appleと戦えるのはSamsungだけに
このような状況の中、ほとんどのAndroidタブレットメーカーは、前述の1か2の差別化戦略にシフトしていくだろう。これまで通り、ハイスペックタブレットもリリースされるだろうが、決め手に欠くためインパクトのあるシェアを獲得することは難しいだろう。
ただし、あるメーカーだけはiPadと互角、ないしはそれ以上のタブレットを生み出す可能性がある。それがSamsungだ。なぜSamsungなのかというと、技術力と生産能力そして世界的な販売網を併せ持っている唯一のメーカーだからだ。
よく知られているように、iPadに使われているSoC(System on Chip)「Apple A5X」はSamsungが製造している。さらに、新iPadの肝とも言うべき超高解像度ディスプレイ「Retina Display」もSamsungが製造を担当しているようだとBloombergが伝えている。
新iPadの「Retina Display」は、SHARPが製造を担うと言われていたが、量産ベースでAppleの求める品質要件を満たせず、Samsungが独占供給をすることとなったようだ。
もちろん、Apple製品の重要部品を製造しているからといって、同じものやそれ以上のものをSamsungが生み出せるということにはならない。だが、Samsungが開発するSoC「Exynos」シリーズの性能の高さが示すように、何世代にもわたるAppleとの関係の中で、Samsungは確かな技術力を確立している。
今回発表されたiPadに弱点を挙げるとすれば、チップのコアアーキテクチャ、半導体の製造プロセス、メモリ規格それぞれが世代が変わる過渡期にあって、安定した供給を確保するために新世代の技術を導入できていないという点だ。超高解像度を活かすためには、この部分がネックになる。
Samsungがこの間隙を突き、安定供給に目途がついた段階で次世代技術を投入すれば、iPadを超える性能のタブレットを生み出せる可能性がある。今の世代で実現が難しかったとしても、次世代と次次世代の過渡期でも同じようなチャンスがあるかもしれない。
また、Samsungは今や世界最大級の家電メーカーでありスマートフォンメーカーだ。世界中に張り巡らした販売網は他社の追従を許さないだろう。その点では何も心配いらない。
こうして見ると、Samsungが新iPadを超えるタブレットを生み出すことも可能なのではないかという気がしてくる。
SamsungがAppleを本気で超えようと動き出す日はそう遠いことではないかもしれない。
ボトルネックはOS?
と、ここまで読んできた方(特にAppleファン)にはこう思う人が多いだろう。「iPadにスペックで勝っても価値では敵わない」と。
確かにその通りだ。今回の新iPad発表では妙にスペックを強調していたが、本来Appleはスペックで勝負しない。ユーザー体験の総合的なクオリティで勝負するのがAppleだ。
その点、AndroidはiOSにまだまだ劣る部分が多い。特にタブレット関係ではサービスやアプリの品揃えなど、現時点では相当の差がある。また、iPadに多くの人が感じている「ワクワク感」のようなものをAndroidタブレットにも抱かせるような「イメージの醸成」「ブランドの確立」も課題だろう。
iPad対抗に当たって、もっとも大きくかつ根本的なボトルネックはOSなのかもしれない。
しかし、既にスマートフォンではiOSをシェアで上回るAndroidを利用しているユーザーは多い。スマホとタブレットでアプリ資産を共有できるのは将来的にもっと大きな利点になるだろう。
Nexus Tabletを出す以上、Googleもソフトウェア面におけるタブレットの惨状を放置するとも思えず、改善が期待される。
そうして条件が揃った時、SamsungがiPadを超えるGALAXY Tab(という名前になるかは不明だが)をリリースするかもしれない。
Androidユーザーの一人として、その日を楽しみにしたい。