誰もが逃れられない「老い」と向き合う女優の葛藤、映画『アクトレス~女たちの舞台~』

誰もが逃れられない「老い」と向き合う女優の葛藤、映画『アクトレス~女たちの舞台~』

年を取りたくないと思うことは誰にでもあるかもしれません。

しかし、どうしてそう思ってしまうのでしょうか。死に近づくからというのもあるかもしれませんが、なにより若さが失われてゆくことへの恐怖があるような気がします。とりわけ、外見のイメージが重要である職業、例えば女優にとって年齢は非常に重要です。

映画『アクトレス~女たちの舞台~』はそんな女優の葛藤を通じて、年齢を重ねるということはどういうことなのかを問いかける作品です。18歳の時に演じた舞台の再演で、今度は40歳の相手役を演じることになったスター女優の葛藤をジュリエット・ビノシュが体現します。

大女優が過去の出世作に再出演

大女優のマリア(ジュリエット・ビノシュ)は、駆け出しの頃に自分を見出してくれた劇作家であるヴィルヘルム・メルヒオールの功績を称える授賞式に出席するために、スイスのチューリヒに向かいます。その列車の中で、個人秘書のヴァレンティン(クリスティン・スチュワート)から劇作家の死を知らされます。悲しみに暮れる中、スイスのホテルに到着したマリアは気丈にレセプションに参加しますが、そこでヴィルヘルムの代表作であり、マリアの出世作でもある『マローヤのヘビ』の再演の話を持ちかけられます。

『マローヤのヘビ』は、40歳代の女性実業家が、18歳の若い女性に魅了され、彼女の魅力に狂わされてゆくという物語。マリアはかつて18歳の役を演じたことでスターダムを駆け上がっていったのです。しかし、今度は40歳代の役を演じてほしいというオファーで、未だかつての栄光を忘れていないマリアは葛藤します。

信頼するヴァレンティンの助言もあり、悩んだ末にオファーを受けることにしたマリアは、ヴァレンティンを相手役にセリフの練習に励みます。そのセリフの一語一句は、年を取り、かつての美しさを失いつつあるマリアの心情を代弁するかのようなものでした。

一方、かつてマリアが演じた若い女性の役は、新進気鋭のハリウッド女優ジョアン(クロエ・グレース・モレッツ)が演じることに。ハリウッドの大作映画に主演し、スキャンダルも撒き散らす自由奔放なジョアンは、マリアとは対照的な存在。しかし、マリアが失った若さという「特権」を持つジョアンに、マリアは複雑な感情をいだきます。

若い女が妙齢の女性をくるわせてゆく、という官能的な物語の劇中劇がそのままマリアとジョアンの関係を示しているようでもあり、さらにマリアと秘書のヴァレンティンとの関係にも重ねて見せてゆく手法が見事で、若さとは、歳を取るというのはどういうことなのかを観る人に考えさせます。とりわけ女優という職業では、年齢という問題は切っても切れないもの。いつまでも若い頃に演じた役を捨てきれないでいるマリアは、自らの感情と周囲の評価とのギャップに向き合うことになるのです。

そして、ジョアンはマリアが失った「若さ」の特権を無自覚にふるい続けます。マリアの気持ちを理解することができず、ジョアンのようにもなれないヴァレンティンもまた、自らの存在意義について深く思案して苦しむのです。

女優3人の見事な演技合戦

本作のメインキャストを務める3人の女優は、いずれも見事な芝居を披露しています。主人公のマリアを演じたジュリエット・ビノシュは葛藤する女優の心理をリアルに表現しています。老いという問題はどんな女優にとっても重くのしかかる問題であるだけに、その感情のリアリティは鬼気迫るものがあります。

ジョアンを演じたクロエ・グレース・モレッツは、『キック・アス』という大作映画でスターとなった女優ですが、彼女自身の出自と本作での役が重なっているかのようです。

秘書のヴァレンティンを演じたクリスティン・スチュワートは、本作で最も高く評価された女優です。女優という特別な職業のそばで仕事をする普通の女性である彼女には、女優たちの苦しみの本質がわかりません。そのこと自体がヴァレンティンの悩みとなっており、特別な存在になれない者の苦しみを体現しています。

女優の老いと若さをめぐるこの映画は、実際に演じている女優の見事な芝居が支えています。3人の見事な演技合戦をぜひ堪能してほしいと思います。

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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部