猫、可愛いですよね。
猫が家で待っていると思うと仕事も頑張れる、猫のお陰で毎日の疲れが癒やされる。そんな人もいるのではないかと思います。映画『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』は、野良猫との出会いでどん底の人生から立ち直った青年の実話をもとにした作品。ドラッグに溺れ、家族に見放されてホームレスとなったストリートミュージシャンが、ボブと呼ばれる野良猫との出会いによって生きることに希望を見出し、ついには本を出版するに至った過程を優しいまなざしで描いています。
原作は、ジェームズ・ボーエンが自身の体験を綴った『ボブという名のストリート・キャット』。茶トラのボブの可愛い姿を装丁に使用していますが、このボブ、実は映画の中でも自分役で出演しています。本人、ならぬ本猫が演じている珍しい作品なのです。
猫のおかげでストリートの人気者に
ヘロインに手を出してしまったジェームズは、路上演奏で日々の糊口をしのいで生きる日々。中毒状態からなんとか抜け出そうともがいていますが、路上生活仲間からヘロインを進められ、再び手を出してしまいます。
病院に担ぎ込まれたジェームズは、ソーシャルワーカーのヴァルから住居を提供され、晴れてホームレス生活からは脱却。しかし、仕事はなく、ストリート演奏での収入も微々たるもので苦しい生活には変わりありません。そんなある日、家に1匹の茶トラの猫が侵入してきます。ジェームズはなりゆきでその猫の世話をすることになり、隣人のベティがボブと名付け、共同生活が始まります。
ある日、ジェームズはボブを路上演奏に連れて行くと、たちまち人垣ができるほどの大盛況に。ボブのおかげでジェームズは食べ物に困らない程度の収入を得ることができるようになるのです。しかし、路上でのトラブルに巻き込まれたジェームズは演奏禁止を言い渡されてしまいます。
その後、ジェームズはビッグイシューの販売員となり、ボブのおかげでここでも売上を伸ばしますが、他の販売員の反感を買ってしまい、またしても販売禁止処分に。失意のジェームズは再びヘロインに手を出しそうになりますが、ボブとともに中毒を乗り越えることを決意し、治療に立ち向かうことになるのです。
本作は、人と猫との心温まるストーリーですが、イギリス社会のドラッグ蔓延の実態や薬物中毒から抜け出すことの難しさ、過酷なホームレス生活の実態など、深刻な社会問題にも触れています。貧困にあえぐ人々は、それだけで尊厳を傷つけられていて、孤独や生活の苦しみを忘れたくて薬物に手を出す人が多いのです。ジェームズはボブのおかげで人間としての尊厳を取り戻し、薬物を克服することができました。猫に癒やされるだけでなく、生きるための心の支えになっているのが本作の一番重要な点でしょう。
新人俳優(?)ボブの名演技
人懐っこくておとなしいボブを演じているのは、本作のモデルとなった猫のボブが自ら演じています。映画やテレビの撮影用に訓練されていたわけではないのに、見事な演技を発揮しています。
以下の動画はボブとジェームズ本人の路上での様子です。まるで、映画の1シーンのようですね。マフラーをしておとなしくちょこんと座っているボブがすごく可愛いです。
ジェームズはボブとの出会いと生活を綴った本がベストセラーとなり、自宅を購入することができました。出版イベントのシーンでは著者本人もカメオ出演しています。ジェームズ本人は現在、ホームレス支援や動物愛護の慈善活動に従事しているそうです。受けた恩をきちんと返そうとする姿勢が素晴らしいですね。
猫のおかげで生きていられる、そんな思いを抱えた猫好きの人なら感動間違いなしの作品です。猫と人との関係を見つめ直すことになるでしょう。
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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部