エリザベス王女のお忍びの外出をロマンティックに描いた映画『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』

エリザベス王女のお忍びの外出をロマンティックに描いた映画『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』

王室。それは一般市民の憧れでもあり、国の象徴。普段、どんな暮らしをしているのか我々には想像もつきません。

映画『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』は、そんな王室で育った王女が身分を隠して街を冒険する物語です。1940年代、イギリス王室の2人の王女、エリザベス王女とマーガレット王女がお忍びでロンドンの街に飛び出し、一晩だけの青春を満喫します。

王室という特別な家系に生まれた王女は、普通の人々とは身分も生活水準も違い、それゆえに人々とは異なる不自由を抱えて生きています。籠の中の鳥のような生活を強いられていた王女たちが、第二次世界大戦の終戦の日、戦争が終わった喜びに浸る街の人々に混じって自由を享受し、淡い恋を経験します。イギリス版『ローマの休日』といった赴きの作品で、実際に本作に登場するマーガレット王女は『ローマの休日』のヒロイン・王女アンのモデルとなったと言われています。

史実を大胆な脚色でロマンティックに演出

1945年5月7日、長く続いた第二次世界大戦が終結の日を迎え、ロンドン市中が喜びの熱気に包まれています。そんな中、バッキンガム宮殿の中で、エリザベス王女と次女のマーガレット王女は、その喜びを国民とともに分かち合いたいと外出許可を願い出ますが、王妃には許可してもらえません。しかし、国王ジョージ6世は、後に王位を次ぐ長女の「国民の生の声を聞きたい」という想いを汲み、お忍びでの外出許可を与えます。

護衛を2人つけられたり、母の差し金か、訪れたホテルは貴族だらけだったりしますが、2人は護衛の隙をついて逃げ出し、戦勝を祝う人でいっぱいの広場に繰り出します。人混みの中でエリザベスとマーガレットははぐれてしまい、大はしゃぎのマーガレットの身を案じ、エリザベスは妹を探すことにします。

空軍パイロットだった若いイギリス兵と出会い、彼に助けられながら妹を探すエリザベス。その道中、彼女は国民の中にある様々な感情を知ることになります。浮かれているように見えながら、実は愛する人が帰らない人々がいることを知り、前線で戦った兵の恐怖心に触れ、国のあり方を真摯に考えるようになります。一方、マーガレットはうっかり娼館に足を踏み入れ、兵舎に娼婦たちを引き連れていってしまう事態に。どんちゃん騒ぎと戦争で失ったものの喪失感が入り乱れる夜の街を2人の王女は、初めての自由な時間としてそれぞれに満喫するのです。

本作の物語は基本的にフィクションですが、戦勝の日に2人の王女が外出を許可されたという事実から着想を得ています。実在の王室を題材にしながら、娼館に行ってしまうなど、実に大胆な脚色を取り入れていることに驚かされます。

外出してわかる市民の反応

戦勝記念日は、日本でいうところの終戦記念日なのですが、戦争に勝った国の記念日はこんなに華やかなものなのかと驚かされます。日本の終戦記念日では考えられません。しかし、ロンドン中が浮かれているように見えながらも、実は失ったものも大きく、そんなやり場のない悲しみを紛らわすかのようにはしゃいでいるのかなと思えるシーンがいくつも登場します。国王ジョージ6世のスピーチに感動する人もいれば、悪態をつく人もいます。群衆の中で1人で煙草を吸っている女性は、夫が戦死したことを語ります。バッキンガム宮殿の中にいては知ることができなかった人々の痛みや悲しみを、エリザベス王女は知ることになるのです。

イギリス王室は、イギリス国民に愛される存在ですが、なぜ愛されているのかが垣間見える素敵な作品です。

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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部