ゼロから始める豊かな生活探し、奇想天外な実験に挑戦した映画『365日のシンプルライフ』

ゼロから始める豊かな生活探し、奇想天外な実験に挑戦した映画『365日のシンプルライフ』

現代は大量消費社会。ネットを開いても街を歩いていても、どこもかしこも広告だらけで、我々はいつでもモノを買えと迫られています

そんな時代だからこそ、モノを捨てることを推奨する動きが流行したのでしょう。私たちの幸せな生活にとって本当に必要なモノは何なのかを考えることが大事になっていますが、今回紹介する映画『365日のシンプルライフ』はそんな時代にピッタリな作品です。

本作は、モノを買うことが大好きな人物が、一旦すべてのモノ、服も家具もすべてを倉庫に保管し、1日1個ずつ取り出していくという、やや過激な実験を通して、モノの価値と豊かな生活とは何かを問うドキュメンタリー映画です。

生活に必要なモノは何?

フィンランドの若い映像ディレクター・ペトリは、多くのモノに囲まれた生活を見直すために、自分のすべての持ち物を倉庫にあずけて1日1個ずつ運び出して365日生活してみるという実験を思いつきます。

はじめは服すらもない状態からスタートさせ、全裸で家から倉庫まで走り、まずはコートを入手。暖房器具も何もない部屋でコートにくるまって寝ます。大きい荷物は友人や弟の力を借りて運び出し、傍らで撮影の仕事をしながらの生活をおくるペトリですが、周囲からは頭がおかしくなったのかと心配されます。

そんな中、ペトリが敬愛する祖母だけは純粋に応援してくれるのです。いつも人生で困ったことがあったら祖母に相談していたペトリは、祖母の後押しがあってこの奇妙な実験を始めることができました。

最初のうちは、衣服などの生活必需品を持ち出すことからはじめ、次第に携帯電話などの贅沢品を取り出しだすと、ペトリは次に何を持ち出せばいいかわからなくなります。最初の50個くらいですでにある程度満ち足りた生活をおくれるようになることに気づくのです。

しかし、人生は常に予測できない事態が起きるもの。例えば、自転車の鍵を失くしてロックが外せなくなったら、ノコギリでロックを外すしかありませんよね。そんな時、ノコギリが突然必要になっても、最低限のモノしか持っていない人は対応できないわけです。そんな時は、ペトリも仕方なく工具セットを倉庫から取り出します。

そして、モノには必要に変えられない価値を持った思い出の品もあることをペトリは気づきだします。そんなモノの大切さや豊かな生活とは何か、ペトリは1年間の実験を通して実感してゆくのです。

「衣食住」という、生活に必要なものを表す言葉がありますが、現代人はこの衣食住に直接関わらないモノも大量に消費しています。まるで現代人は必要最低限なモノだけでは満足できなくなってしまったかのようですが、そんな現代の申し子のようなペトリでも、モノがなくても意外と生活できるものなのだなと感心させられます。人間の適応力は案外高くて、モノが無ければ無いで、その状況に対応できるものなのですね。これはそんな人間のたくましさについてのドキュメンタリーであるとも言えるでしょう。

消費社会で本当に必要なものとは?

ペトリは、大体50〜100個くらいのモノを取り戻した時に不自由ない生活ができるようになったと映画の中で語っています。100個以降は生活を豊かにするちょっとした贅沢品であるというわけです。

意外なことにペトリは冷蔵庫をあまり必要としないこと。ペトリが冷蔵庫を取り出すのは映画の後半になってからなのですが、冷蔵庫がなくても生活に困らないのは彼が一人暮らしであることと、現代の都会には食事はお店に行けば何でも手に入るからという面もあるでしょう。映画冒頭の冬の季節では、飲み物を二重窓の間に置いて、外の低気温で保存しているのも印象的です。しかし、デリバリーやテイクアウト、スーパーマーケットなどがほとんどない時代や地域、そして家族と一緒に住んでいたらおそらく冷蔵庫は真っ先に必要になるのではないでしょうか。

最初のうちはとても不便そうですが、持ち帰るモノを選ぶ過程はなんだかとても楽しそうで、自分でもやってみようかなという気にさせてくれる作品です。全裸からとはいかなくても、ある程度モノを整理して、自分なりの必要最低限と豊かな生活のラインはどの辺なのかを探ってみるのも面白いかもしれませんね。

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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部