正しい歴史を知るのは人か物か、『映画刀剣乱舞-継承-』は日本のサブカルチャーの想像力が生んだ傑作

正しい歴史を知るのは人か物か、『映画刀剣乱舞-継承-』は日本のサブカルチャーの想像力が生んだ傑作正しい歴史を知るのは人か物か、『映画刀剣乱舞-継承-』は日本のサブカルチャーの想像力が生んだ傑作

「物が語る故、物語」。

『映画刀剣乱舞-継承-』は、そんな言葉から始まります。人には人の生きる道があるとすれば、それは物にもあるのかもしれません。本作は、擬人化された日本刀「刀剣男子」たちの活躍を描いた大人気ゲーム『刀剣乱舞』を原作に、2.5次元舞台で活躍する俳優たちを起用して映画化した作品です。

物をイケメン男子に擬人化するという設定に慣れていない方は面くらう作品かもしれませんが、役者たちの熱演、大変よく練られたプロット、そして時代劇の醍醐味である殺陣も本格的。テーマも骨太な一級品の娯楽映画です。

歴史の真実を知るのは人ではなく物

物語の舞台は、西暦2205年。歴史修正主義者たちは、時間遡行軍を過去に送り込み、歴史の改変をもくろんでいます。それを阻止するため、時の政府は審神者と呼ばれる守護者に歴史の守護を命じます。この時代、物に命を吹き込む技術が開発されており、日本刀が戦士の姿になった刀剣男子たちが、審神者の命のもと、歴史を守るために戦っています。

今回、刀剣男子たちが受けた任務は、本能寺の変で死亡した織田信長を逃がして歴史改変を企てる時間遡行軍を排除すること。その時代へと飛んだ刀剣男子たちは、敵勢力を倒し、予定通り本能寺の変は起きました。

しかし、何者かの働きによって織田信長が生き延びていたことが判明。刀剣男子たちは再び過去へと向かい、正しい歴史を維持するために織田信長を抹殺する任務に就くのです。しかし、信長の生存を巡って、実は歴史に記されていない衝撃の真実があることが次第に明らかになり、刀剣男子たちは各々で何が正しいのかを見極めねばならない事態に直面していきます。

本作は、「正しい歴史」とは何かを問いかけます。教科書に載っている歴史は、本当にその通りに起きたことなのか、過去のことは知る由もありません。歴史は勝者の都合の良い方向で語られがちなもの。信長が本能寺で本当に死んだのか、史実でも確認した者はいませんから、実際にはどうだったのかはわからないのです。本作は、まさにそうした歴史の盲点を突いています。

刀剣男子たちの任務は、「正しい歴史」を守ることですが、それは教科書に載っている歴史のことなのか、それとも、実際に起こった出来事なのか。目撃者もいない事件の真の歴史を知る者は誰なのか。それは人ではなく「物」なのです。命を持った物である刀剣男子だけが知る歴史の真実こそ、「物が語る物語」。知られざる真実の歴史を守るために、刀剣男子たちは戦うのです。

これは日本からしか生まれない作品

本作は、あらゆる点で日本からしか生まれない作品だと考えます。

まず、日本刀をモチーフにしたキャラクターたちが活躍するので、時代劇要素が色濃いという点が挙げられます。今回は、本能寺の変の時代に生きた侍たちも登場するわけですが、殺陣も非常に迫力があり、アクション映画としての魅力も高い作品に仕上がっています。

また、原作がゲームであり、物の擬人化という発想は日本の2次元カルチャーの得意分野です。ゲームに限らず、漫画やアニメでは頻繁に用いられる定番ともいえる手法で、万物に魂が宿ると考える日本の精神性にも通じるものがあります。

そして、撮影テクニックには、これもまた日本が得意とする特撮技術がふんだんに用いられています。アクション芝居にも特撮の影響が感じられ、さらに本作の脚本は、特撮界の名ライター・小林靖子です。彼女のストーリーテラーとしての才能がいかんなく発揮されており、それが原作ファンにとどまらず、広い層にまで本作の魅力が伝わる大きな原動力となっています。

時代劇、2次元コンテンツ、特撮の想像力をふんだんに駆使した、日本のサブカルチャーの総決算のような作品です。原作を知らない、あるいはこういうタイプのコンテンツには触れたことがない方をも魅了する力を持った作品ですので、一度見てみることをお勧めします。

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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部