20世紀の冷戦時代はソ連崩壊とともに終わったわけですが、そんな時代の移り目に生きた人々がどんな大変な目に遭っていたか、私たちには想像がつきにくいものです。
映画『オーケストラ!』は、そんな時代に生きた音楽家たちの物語です。ソ連時代に共産党に背いた罪で、清掃人にされてしまったかつての名指揮者が、パリのシャトレ座で華々しくカムバックする姿を描いています。
時代に翻弄されながらも、人はいくつになってもやり直せるという力強いメッセージと、音楽は人種も、生まれきた環境も違う人たちを一つにしてくれる素晴らしいものだということがよく伝わってくる作品です。
寄せ集め集団がパリの劇場で奇跡を起こす
1980年代、ソ連のボリショイ劇場管弦楽団で名指揮者として名を馳せていたアンドレイは、共産党のユダヤ人排斥政策に反対し、楽団を終われ、今ではボリショイ劇場の清掃人として働いています。ある日、パリの由緒ある劇場・シャトレ座からボリショイ楽団にコンサートのオファーのFAXが届き、たまたま部屋を掃除していたアンドレイがそれを誰よりも早く見つけます。
アンドレイは、これが指揮者にカムバックする最後のチャンスだと思い、支配人には内緒で、自分でかつての劇団仲間を集め、パリのシャトレ座で公演することを計画します。
かつてのアンドレイと同様、劇団を追われた仲間たち、ユダヤ人親子、ロマ族、さらに自分をクビにした当時の責任者にまで声をかけ、アンドレイは偽のボリショイ劇場管弦楽団を結成、パスポートまで偽造して寄せ集めの仲間とともにパリに向かいます。
しかし、パリに着くやいなや、それぞれが勝手な行動をとるばかりで、リハーサルすらままなりません。パリ在住の美人バイオリニスト、アンヌ=マリー・ジャケも共演する予定なのですが、これで本当に大丈夫なのかと呆れられる始末。
アンドレイは、自らのカムバック以外にも実は隠された目的を持っていました。実は、このアンヌ=マリーはアンドレイの過去と関係のある人物。言うことを聞かない団員をまとめることの他、過去との決着もつけなければ公演は成功しそうにありません。アンドレイも他の劇団員もアンヌ=マリーもそれぞれが複雑な想いを抱えながらコンサート当日を迎えます。
監督のラデュ・ミヘイレアニュは、80年代に共産党独裁政権下のルーマニアから亡命した過去を持っています。そんな監督の経験は、多彩な人種が所属する寄せ集め劇団員の描写に反映されています。しかし、重くなりすぎずにコミカルな描写も多く、特に陽気なロマ族の人々はその演奏技術の凄さもすごく、ユニークなアクセントになっています。
本物の劇場で撮影された圧巻のコンサートシーン
クライマックスのコンサートで演奏されるのは、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。12分間続くコンサートのシーンは圧巻で、この12分だけでもこの映画を観る価値のあるものしているほどに感動的です。
天才バイオリニストのアンヌ=マリーを演じたメラニー・ロランは、フランス国立管弦楽団の第一奏者サラ・ネムタヌの指導の下、ヴァイオリンの猛特訓をして撮影に臨んだそうで、その本格的な演奏演技にも要注目です。コンサートのシーンは、実際にパリのシャトレ座全面協力のもとで撮影されました。本物のオーケストラコンサートの雰囲気が存分に味わえます。
バラバラだった劇団員が音楽で一つになる姿は、音楽が国や民族の垣根を超えて人をつなげるものであるという、力強いメッセージが込められています。歴史のうねりの中で様々なものに翻弄されてきた人々による美しい音楽は、きっと誰もが心震わされるでしょう。
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