『Mother』『Woman』そして『カルテット』に代表される作品で、観る者の動きを止めるセリフを紡ぎだす脚本家・坂元裕二氏が手がけるドラマ『anone』。
親もなく、ネットカフェで暮らす19歳の少女が、奇妙な出来事とある女性との出会いをきっかけに「生きること」に目覚めていく、生きることとその本当の意味がテーマのこの作品。
主人公の寒気だつような孤独と絶望をどこか軽やかに、人との出会いが観る者に淡い希望を感じさせながら、今作もまた決して先を読ませることなくストーリーが展開していきます。
動画配信サービスのHulu(フールー)では、『anone』の全話が見放題です(2018年8月1日時点)。
ハリカと亜乃音、そしてそれぞれの出会いが導く自分自身の生き方
孤独死や自殺など、特殊な事情があった部屋の清掃アルバイトをして日銭を稼ぎ、ネットカフェに寝泊まりしている辻沢ハリカ(広瀬すず)。通称「ハズレ」。同じような生活を送る美空(北村優衣)と有紗(碓井玲菜)は、友達とはちょっと違うけれど他愛もない会話で笑い合える、ネットカフェ仲間です。
ハリカの唯一の楽しみは、チャットゲームの中でだけ会えるカノンさん(清水尋也)に、今日あったことなどを報告すること。闘病中で病院の外に出られないカノンさんは、ハリカの幼少期の話を聞きたがります。
8歳から12歳まで、優しいおばあちゃんと2人、絵本の中から出てきたような森の中の家で暮らしていた、と話すハリカ。「大切な思い出って、支えになるし、お守りになるし、居場所になるんだなあって、思います」。
そんなある日、有紗がバイト仲間と行った「柘」という町で、多額の現金が入ったバッグを発見します。3人はバッグを探しに「柘」に向かいますが、そこはかつての幼いハリカが暮らした町。実際の過去は、ハリカが語った内容とは大きく異なるものでした。
大金の入ったバッグを前に事件が起こり、3人の儚い友情は無残にも砕け散ります。一方、海岸に埋めた大量の札束を少女達に発見された初老の女・林田亜乃音(田中裕子)は、「使っちゃいけないお金なんです」と彼女達から死に物狂いで現金を奪還しようとします。
かたや、余命僅かなカレー店の店主・持本舵(阿部サダヲ)は、人生に絶望して死にたい女・青羽るい子(小林聡美)と店内で意気投合。死ぬつもりでさすらった挙句、行き着いたのは「柘」。そこで大量の札束が入ったバッグに偶然遭遇した2人は、裏金の存在をにらみ、亜乃音の追跡を決意します。
バラバラな背景をもち、どこか生きることがうまくいかない登場人物達。何本もの大きなプロペラが丘の上でひゅんひゅんと音をたてて回る、大金が打ち捨てられた「柘」という町がそれぞれの出会いを手繰り寄せます。
さて、ハリカが自分を「ハズレ」と呼ぶ理由とは。なぜカノンさんはハリカの本名を知っていたのか。ハリカと亜乃音が共有することになる大きな秘密、「使っちゃいけないお金」の意味とは。そして、ハリカと持本・るい子はどう出会うのでしょうか。
「あのね……」と寡黙なハリカが語り出すのは、いつもどこか優しい話。悲しい時にも笑える話。聞いた人が忘れることのない、小さいけれど確かな物語が、ハリカの人生と周りの人間を少しずつ、これまでとは違った方向に変えていきます。静かなのにものすごく力強い、生きる為のエネルギーに溢れた力作です。