日本が生んだ世界的シリーズ、ポケットモンスター(ポケモン)。
そのポケモンをハリウッドで実写映画化したのが本作『名探偵ピカチュウ』です。ピカチュウがおじさんの声でしゃべることが公開前から話題になった本作ですが(実は原案となったゲーム通りの設定なのです)、各ポケモンのデザインが現実世界の動物を基調にしながら絶妙に原作のイメージを保ち、公開されるやファンの心を鷲掴みにしました。
人間とポケモンが共存する世界を見事に作り上げた本作は、ゲーム作品を原作とする映画では全世界で歴代最高の売上を記録する大ヒットとなりました。そんな本作の魅力を解き明かしてみたいと思います。
ポケモンと人間が対等に暮らす街
社会人になったばかりのティムは、しばらく疎遠になっていた父が死んだという知らせを受け、人間とポケモンが共存する街・ライムシティを訪れます。探偵業をやっていた父は事故に巻き込まれたとヨシダ警部補(渡辺謙)から聞かされたティムは、父の部屋を整理しようとアパートを訪れると、一匹のピカチュウと出会います。
ティムには、そのピカチュウの声がなぜか聞こえてしまい、自分がおかしくなったのかと不安になります。しかも、声も仕草もおじさんのようで普通のピカチュウと明らかに異なっていたのです。そのピカチュウはティムの父のパートナーであり、記憶喪失になっているのですが、自分が生きているなら父もどこかで生きているはずとティムに告げ、この事故には陰謀があることをほのめします。
ティムは、父の死の真相を確かめるために独自に調査を開始。新人ジャーナリスト・ルーシーと協力し、父の死とライムシティの裏で進行する陰謀に迫っていきます。
本作の舞台となるライムシティでは、ポケモンと人間が対等な立場で生活しています。トレーナーと飼育されるペットではなくパートナーとして生活しており、バトルをさせることもありません。ポケモンたちのなかには仕事を持っているものもおり、市民と同じように暮らしているのです。
そして、人は誰もがポケモンをパートナーとして生活を共にしており、子供から大人までポケモンと一緒にいるのが当たり前なのです。例えば、渡辺謙のような渋いおじさんがポケモンと一緒にいてもだれもおかしなことだと思わない世界なのです。
子供のころからポケモンに親しんできた世代には、夢のような世界ですよね。しかし、そんな夢のような街を描くからこそ、ポケモンと人間の関係についてもしっかり考察しています。本作に登場するミュウツーは、アメリカでも大ヒットしたポケモン映画第1作『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』でも登場した人造のポケモンですが、その生い立ちから自分の存在意義に悩み、人間たちを淘汰しようと考えていました。
本作のミュウツーも人間を恨んでいたのですが、ティムの父のような正しい心を持った人間もいることを知っていきます。『ミュウツーの逆襲』ではサトシの献身的な活動を目の当たりにしてミュウツーは考えを変えていましたが、そんな日本版アニメ映画へのリスペクトも感じられる展開になっています。
ピカチュウの表情はライアン・レイノルズの演技を参照
本作は毛並みがフサフサのピカチュウや、リアルな質感のポケモンたちを人間と違和感なく共存させたその技術も話題になりました。
特に、表情豊かにおじさんの声で喋りまくるピカチュウの表情が秀逸です。これはフェイシャルキャプチャと呼ばれる、顔の表情筋を直接データに取り込みア3Dアニメーションを作成技術で、ピカチュウの声を演じたライアン・レイノルズの表情をデータに使用しています。
またライアン・レイノルズは、役作りのためピカチュウの目線になってピカチュウの目から世界がどんな風に見えるのかを研究したと自身のYouTubeチャンネルで語っています。
本作のピカチュウが妙に人間くさい芝居をしているのは、実際の人間の動きを参照しているからなのです。それが本作のリアリティの源泉になっています。
このフェイシャルキャプチャを使うアプローチは、実は本作の原案となったゲーム版「名探偵ピカチュウ」でも採用されています。ゲームの段階から今までにないピカチュウを作ることを目標にし、「おっさんのピカチュウ」という発想が出てきたので、実際におじさんの表情筋を使ってピカチュウのモデリングとリギングをおこなったそうです。映画はここでも原作をリスペクトしていたのですね。
名探偵ピカチュウの表情作り【第1回】「おっさんのピカチュウ」を作る(Creatures Garage)
本作は、原作のポケモンの世界への理解がとにかく深く、ポケモンファンの期待を裏切ることはありません。かつてポケモンを楽しんでいた大人も、子供も満足させる極上のエンターテイメントです。
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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部