独特の無国籍感がクセになる、岩井俊二の映画『Love Letter』の少女漫画的世界の魅力とは

独特の無国籍感がクセになる、岩井俊二の映画『Love Letter』の少女漫画的世界の魅力とは

現在の日本映画界で、ひと際異彩を放つ岩井俊二監督。

その特異な才能を知らしめたのが、彼の最初の長編映画『Love Letter』です。岩井俊二監督の作品の中でも屈指の人気作であり、出演している中山美穂と豊川悦司の代表作でもある本作。

美しい雪景色の小樽を舞台に、手紙を通じて始まる交流を描いたこの作品。なぜ人々に長く愛されているのでしょうか。

郵便の誤配が生むドラマ

雪山の遭難で婚約者・藤井樹を失った渡辺博子は、三回忌の折に彼の母親から中学時代の卒業アルバムを見せてもらいます。そこには、中学時代の彼の住所が記載されていました。しかし、その住所は今では国道になっており、家はもうないのだというのです。博子は、亡き恋人への想いを天国に届けるために、今は存在しないその住所宛に手紙を出すことにします。

すると数日後、すでに死んだはずの彼からの返事が博子の元に届きます。その送り主は、亡くなった婚約者と同姓同名で同じ街に住む女性でした。住所は違っても、同じ街で郵便局の管轄も同じだったのでしょう、本来は誰にも届かないはずの手紙が届いてしまったのです。

2人は、そのまま奇妙な文通を続けることにします。やがて、同姓同名のその女性は博子の元婚約者と同じ中学に通っていたことがわかってきます。博子は彼の中学時代を詳しく尋ねると、樹はそれに応じてくれ、博子の知らない婚約者の姿を知ることになり、樹も中学時代の彼の想いを知ることになるのです。

本作は故人をめぐるラブストーリーです。博子は、3年経っても婚約者の死から立ち直れず、新しい人生を始められないでいます。そんな彼女が、偶然の文通で彼の中学時代を知り、少しずつ前を向くようになっていく過程を美しい映像美とともに綴られています。心に傷を負った博子と、その文通相手となる樹を、中山美穂が一人二役で演じています。

冒頭の白銀の世界に寝転がりたたずむ中山美穂の姿は本当に美しく、どこか現実ではないのではないかという感覚にさせられます。本作は全体的にリアリティよりも心地よいテイストを優先した映像になっており、桃源郷、あるいは漫画に出てくる理想化された世界のような雰囲気を持っているのが大きな特徴です。

本作のポイントは、郵便の誤配という偶然から生まれる物語だということでしょう。現実にはありそうにない、しかし、そんなことが起きたら素敵だなと思わせる絶妙な設定です。この設定に説得力があるのも、岩井監督の独特の美学によるテイスト重視の映像世界が、こういうことがあり得るかも、という気にさせてくれるからでしょう。

岩井俊二監督の作品世界は、少女漫画的だと言われることがありますが、本作はその少女漫画的なセンスが最も色濃く発揮された作品と言えます。手紙でしか知らない相手と、今は亡き人の思い出を共有するというのは、なんともロマンのある話です。

東アジアの岩井俊二人気

本作は1995年に日本では公開されましたが、韓国で1999年に公開されると140万人を動員する大ヒットを記録したそうで、韓国で大ブームとなりました。作中に登場する中山美穂の台詞「お元気ですか?」は韓国では流行語になったこともあるそうです。

岩井俊二監督は日本のみならず、東アジア圏で人気のある監督です。日本の実写映画監督としては突出した人気を誇り、中国でも『チィファの手紙』という作品を監督しています。ちなみに『チィファの手紙』と同じ脚本を、日本を舞台にして作った作品が最新作の『ラストレター』で、手紙という題材をSNS時代を舞台に巧みに用いてロマンのある物語を作り上げています。

岩井作品がアジアで広く人気があるのは、わかりやすくロマンティックな魅力と、やはりどこか特定の国籍を感じさせない雰囲気にあるのでしょう。代表作『スワロウテイル』が最も顕著ですが、岩井映画は日本が舞台であっても無国籍感が漂っています。本作の舞台となる小樽もどこかメルヘンチックな印象を与えます。

そういう無国籍感が、岩井俊二監督の作品を特別なものとしているのです。岩井ワールドの唯一無二の魅力が本作には詰まっていますので、まだ観たことのない方は是非見てみることをお勧めします。

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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部