子どもを育てるというのは本当に大変なことです。子どもを持つというのは、人生の中でも最も大きな決断の一つではないでしょうか。
映画『かぞくはじめました』は、そんな子育てから始まる愛の形を描いた作品。愛し合って、結婚して、子供を産むという順序ではなく、親友の子どもを引き取る形でやむなく子育てをすることになった独身の2人の奮闘を描くラブコメディです。
お互い嫌い合っていた2人が、親友夫婦が亡くなったことで、残された子供の後見人としてともに子育てに励む過程で愛が芽生えていくのですが、仕事と子育ての両立や、血のつながらない家族のあり方や家族の多様性など、様々なことを考えさせてくれる作品でもあります。
嫌い合う2人が亡き親友の娘の後見人に
ベーカリーレストランを経営するホリーは、親友のセッティングで、バスケットボールの試合のTVディレクターをしているメッサーとデートすることになります。しかし、2人はまったく気が合わず喧嘩別れすることに。しかし、お互いの親友が結婚することになったので、パーティなどの席ではちょくちょく顔を合わせてはいつもお互いの悪口を言い合います。
お互い、情熱を傾けている仕事があり、独身生活を満喫しているホリーとメッサーですが、ある日、2人の親友夫婦がまだ1歳の娘のソフィーを置いてこの世を去ってしまいます。親友を亡くして悲嘆にくれる2人ですが、衝撃の事実が発覚。なんと2人は遺書で、ソフィーの後見人にホリーとメッサーを指名していたのです。その日からホリーとメッサーは、ソフィーを育てるために一緒に暮らすことになり、慣れない子育てに四苦八苦する生活が始まります。
近所の住民や友人たちなどに助けを借りながらも、子育てと仕事に励む2人ですが、相性が悪いのは相変わらずで喧嘩が絶えません。しかし、亡き親友の娘を可愛いと思う心だけは一緒で、初めてソフィーが歩いた時に2人で興奮するなど、子育てを通じて徐々に心が縮まっていくのです。
会って初日にポシャったデートもついに果たし、2人には本当に愛が芽生えたのかと思いきや、メッサーに昇進と異動のオファーが舞い込みます。キャリアを取るか、家庭を取るか。家族の物語では定番の葛藤ですが、自分たちが生んだわけではない子どもの、しかも、法的にも不安定な状態の家族生活がいつまで続けられるのか不安もある中、メッサーの心は揺れ動きます。
親友の死という重たいシチュエーションで物語が動く作品ですが、それほど悲しい雰囲気にならず、コミカルに進行していく作品です。というより、突然1歳の子どもを育てなくてはならなくなった2人には、悲しんでいる余裕なんてなかったのでしょう。仕事と子育てを両立させて生活することがいかに大変なことであるのかを、この映画はしっかりと描いており、子育て経験者なら深く共感するのではないでしょうか。
そして、赤ん坊のソフィーがとにかく可愛いので、2人と一緒にソフィーの成長を見守るような気分になれる作品です。
仕事か家族か
子育て以外にも、この映画は仕事のキャリアと家庭の両立という、永遠のテーマも描いています。ホリーは、ベーカリーカフェの経営者として店舗の拡大や改装を計画していますが、子育ての費用のために諦めようとしていたところを、メッサーが投資して2人の仲が接近するという展開もあります。そして、メッサーは昇進のチャンスが異動の条件とともに舞い込んできます。気ままな独身生活を謳歌していた頃のメッサーなら迷わず受諾した話なのですが、疑似とはいえ家族を持った身では即答できません。しかし、この疑似家族であるということが、メッサーだけでなくホリーの心にも重くのしかかります。
仕事を取るか、家族を取るか。家族ドラマにはありがちなテーマを擬似家族で描いた点は本作の新鮮なところ。また、本作にはゲイで子育てをしている男性のカップルや、夫が子どもの世話をしている4人の子持ちの夫婦など、多種多様な夫婦が登場します。家族のかたちは一つじゃない、ということを強く示してくれる素敵な作品です。
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