新垣結衣がクールな一面を見せる、五島列島の美しい風景が彩る青春映画『くちびるに歌を』

新垣結衣がクールな一面を見せる、五島列島の美しい風景が彩る青春映画『くちびるに歌を』

新垣結衣と言えば、TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』や『獣になれない私たち』、映画『ミックス。』などのコミカルなキャラクターで近年男女ともに人気の女優。

そんなコメディエンヌとして確固たる地位を築いた彼女ですが、映画『くちびるに歌を』は新境地の開拓に挑んだ作品といえます。新垣結衣は本作で、長崎・五島列島の中学校に臨時教師として赴任してくる女性を演じています。

かつてプロのピアニストとして名を馳せたにもかかわらず、突然離れて小島の中学校の音楽教師をやるようになった理由は何なのか。心に傷を負った新人教師を冷淡に、かつ繊細に演じています。

ピアノが弾けなくなったピアニストと中学生たちの交流

長崎県に位置する五島列島。その島の一つにある中学校に新しい音楽教師が赴任してきます。彼女の名は柏木ユリ。かつてこの島で育った彼女は、プロのピアニストとして成功し、東京で暮らしていましたが、この中学校の音楽教師で元同級生の松山ハルコが産休に入るため、島に戻って教師をやることになりました。

松山は合唱部の顧問を務めており、柏木はその顧問も引き継ぐことに。しかし、柏木は生徒に心を開かず、おざなりな対応に終始します。一方で、柏木の美貌に惹かれて男子の入部希望者は増え、既存の女子部員との軋轢も生まれていきます。それでも柏木はそのトラブルを収めようともしません。

柏木はかつて、プロのピアニストとして活躍していましたが、ある事件をきっかけにピアノを弾けなくなっていました。松山はそんな彼女をなんとか助けられないかと思い、代役を頼んだのです。

合唱部の生徒たちもそれぞれの問題を抱えていました。合唱部をまとめる仲村ナズナは母を早くに亡くし、父は女性とともに家を出たという過去を背負っています。男子新入部員の1人、桑原サトルは自閉症の兄の面倒を見なくてはならず、歌うことが好きなのに満足に部活動ができません。

なかなか一つになれない合唱部ですが、やがて柏木も生徒たちも徐々に本音でぶつかり合い、コンクールに向けて特訓に励むようになります。そして、柏木も秘めた悲劇に向き合うようになるのです。

本作の舞台となった島の美しさに目を奪われます。海の青さ、教会などの歴史的建造物の趣深く、繊細な人間ドラマにふさわしい舞台と言えるでしょう。お祈りが仏教式の手のひらを合わせる形式であるなど、土着の文化とクリスチャン文化が融合した独自の形式が根付いている様子がさりげなく描写され、地方の文化の豊かさも物語の中に盛り込まれています。

そんな舞台とともに本作を彩るのは中学生たちの合唱。恒松祐里や葵わかななど、抜擢された若手俳優たちは半年間の特訓を受けたそうで、見事な合唱を披露しています。

本作はなんといっても主演・新垣結衣の新たな魅力が満載です。明るいキャラクターを演じることが多い彼女ですが、本作では笑顔をほとんど見せない影のある女性を見事に演じており、クールな一面を披露しています。

手紙 〜拝啓 十五の君へ〜の歌詞について

本作で合唱コンクールの課題曲になっている「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」は、2008年NHK全国学校音楽コンクール中学校の部の課題曲にもなった曲をもとにしています。作詞・作曲はアンジェラ・アキで、彼女自身が同曲をエンディングテーマとして歌っています。

15歳は、アンジェラさんにとって人生の転機で、日本からハワイに引っ越した年だそうです。一番不安定な時期だったと本人は語っていますが、そんな時期に将来の自分にあてて手紙を書くという内容の歌詞になっています。発売されたCDシングルは、1年以上トップ50に残り続けるロングランヒットを記録し、課題曲を練習する中学生をアンジェラさんが訪れた様子がドキュメンタリーとして放送されるなど、大きな反響を残しました。NHKはこの曲に関連するドキュメンタリー番組を4本も制作しており、その反響の大きさがうかがえます。

青春の痛みを優しく包み込むような素晴らしい曲です。YouTubeでも全編視聴可能ですので、映画とともにこちらも是非チェックしてください。

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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部