映画の内容より重要な存在だった? 日本独自の映画文化、活弁の魅力が詰まった映画『カツベン!』

『Shall we ダンス?』の周防正行監督による最新作

映画はかつて、音のないサイレント映画でした。

しかし、日本においては、映画が完全にサイレントだった時代はありませんでした。なぜなら、日本の映画館には日本独自の職業、活弁士がいたからです。

『Shall we ダンス?』の周防正行監督の最新作『カツベン!』は、その活弁士を題材にした作品です。映画についての映画は数多くありますが、その中でもひときわ珍しい題材と言えるでしょう。

日本独自の文化である活弁、そして映画への愛が溢れた素敵な作品であり、日本の映画文化の豊かさを掘り下げた作品です。

弁士が映画の面白さを決定づけた時代

大正4年、映画がまだ活動写真と呼ばれていた頃、関西のとある町に暮らす少年・染谷俊太郎は、撮影に潜り込んでは勝手に映画に映り込み、映画館に忍び込んでは映画と弁士の語りを楽しむ、気ままな生活をおくっていました。俊太郎は、当時の人気弁士・山岡秋聲の喋りを完璧にマスターするほど弁士が好きで、将来は弁士になろうと考えていました。

10年後、俊太郎はいかさま興行師・安田の元で、偽物の山岡秋聲になってニセ弁士をやっていましたが、弁士に憧れる自分が人様を騙して金を稼いでいることに忸怩たる思いを抱えていました。

ある日、一座が警察に追われたところを、すきを突いて逃げ出した俊太郎は、偶然通りかかった青木館という映画小屋に住み込みで働くことにします。そこは、隣町に新しくできたタチバナ館という映画小屋に学士を引き抜かれるなど、苦しい経営状況が続いていましたが、人気の弁士のおかげでなんとか成り立っているような小屋でした。

そして、俊太郎はそこで憧れの弁士・山岡秋聲と再開を果たします。しかし、山岡は酒浸りとなっており、かつての栄光の面影はありません。さらに、人気弁士の茂木までタチバナ館に引き抜かれ、いよいよ経営が危なくなっていく青木館。そこで俊太郎は自分に弁士をやらせてほしいと名乗り出るのです。

弁士は、映像に合わせて台詞などを自分で入れたり、情景描写をしたりする職業なのですが、その語り口は落語や講談のようで、その喋り方ひとつで映画が面白くなったり、つまらないものになったりするのが本作を観るとよくわかります。

落語家も同じ噺をアレンジしてしゃべることがよくありますが、弁士もあの感覚に近かったのでしょう。そして、当時の映画館は作品以上に弁士の人気で客入りが決まったと言われているぐらい、弁士は重要な存在でした。そのあたりの事情も落語に近いと言えそうです。

本作は、弁士文化の面白さを存分に描いています。フィルムの切れ端を継ぎ接ぎしただけの映像でも、弁士の語りが巧みならその興行は十分面白いものになってしまうのです。さらに、本来の内容とは全く異なることを喋ってオリジナルの物語を語ってしまうこともありました。また、映画がなければ何も表現できない弁士という存在を通して、表現者としての個性やオリジナリティの大切さも描いているのも本作の重要なポイントと言えます。俊太郎が憧れの弁士のマネが上手く、そこから自分のオリジナリティを作っていくという成長物語としても秀逸で、あらゆる表現者が共感できる内容ともなっています。
 

今も残る活弁文化

本作の主人公を演じたのは、若手演技派俳優の成田凌。弁士による独特の語り口を撮影前の半年間、特訓してマスターしたそうですが、巧みな声色を使い分ける軽妙な語り口で、見事に弁士を演じきっています。

また、作品全体の活弁の監修・指導には現代の弁士たちが参加しています。そう、弁士はサイレント映画時代で無くなったのかと思いきや、実は今でも活動を続けている人がいるのです。

本作に監修として参加している片岡一郎と坂本頼光のほか、澤登翠や山崎バニラ、自分で映画の監督もこなす山田広野など、さまざまな人が弁士として活動しています。

片岡一郎がゲーム実況を弁士風に行うという動画では、弁士とはどんなものか、雰囲気がつかめると思います。

今年になっても、新宿で活弁の映画祭が開催されるなど、近年、にわかに活弁は盛り上がっています。配信の時代に、その場限りの特別な体験を提供するライブの価値が高まったのと同様、活弁も映画鑑賞にその場限りの体験をもたらすものとして注目されているのです。

そんな活弁の魅力を本作はわかりやすく伝えてくれます。活弁の魅力に是非触れてみてください。

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構成・文
杉本 穂高
編集
アプリオ編集部