今年、惜しまれながらもこの世を去った偉大な映画監督、大林宣彦。
70年代後半から映画監督として活躍し始め、数々の大ヒット作を手掛けてきました同監督の長編映画デビュー作が『HOUSE ハウス』です。その溢れんばかりのイマジネーションと斬新な演出で当時の観客の度肝を抜き、デビュー作にして大ヒットを記録しました。
CMディレクターとして培った特殊合成技術を惜しげもなくつぎ込み、見たことのない映像を作り上げた本作は日本映画の歴史の中でも特筆すべき存在で、日本のポップカルチャーに多大な影響を与えました。映画はこんなにも自由だったのかと驚かされ、今なお、まったく古びることのない名作です。
美少女 x ホラー映画の元祖
東京郊外のお嬢様学校に通う7人の女の子、オシャレ、クンフー、マック、ガリ、スウィート、メロディー、ファンタは、夏休みに演劇部の合宿を計画し、オシャレの叔母の家に行くことになります。
足を悪くして車いすの生活の叔母を、7人はいたわりながら合宿生活がスタートします。炊事や洗濯を自分たちでこなし、楽しい時間を過ごす7人ですが、ある夜にマックがトイレに行ったきり戻ってきません。心配で探しにいったファンタは井戸でマックの生首と遭遇。それから、残された6人は家のピアノや布団などの物に次々と襲われるという恐怖を体験することになるのです。
物語は、以上のようなシンプルな構造で、家中のものが意思を持っているかのように女の子たちに襲い掛かり、彼女たちが逃げ惑いながら家の秘密に迫っていく姿を大量の特殊技術を駆使して描いています。とにかく視覚的に飽きさせない作りになっていて、それまでの映画の常識を覆すようなビジュアルの作品でした。
こうした斬新な試みは若者の心をつかみ、その後も大林監督は実験精神あふれる作品を次々と発表しています。しかし、デビュー作である本作の斬新さはその後の監督作品と比べてみても群を抜いており、いま見ても驚きに満ち溢れています。
そして、本作は美少女アイドルとホラー映画を組み合わせた最初の映画とも言われており、その後、数多くのアイドルホラー作品が作られていますが、そのきっかけとなった作品でもあります。また、女の子たちの役名がニックネームであるのもそれまでは考えられなかったことで、キャラクターの特徴をそのまま表すような名前の付け方は、アニメや漫画にも影響を与えているでしょう。
大林監督の戦争を語り継ぐ想いが込められている
本作は基本的に気楽に観られる娯楽作品ですが、大林監督の戦争に対する思いも垣間見える作品です。
大林監督は戦時中の1938年に生まれており、戦争の記憶を語り継ぐことに熱心な方でした。本作にも過去の回想シーンで、戦時中を思わせるシーンをセピア調のカラーで挿入しており、戦争の悲劇を次世代に残していこうという意志がうかがえます。
晩年の大林監督は、戦争を題材にした作品を数多く作っています。今年公開された遺作『海辺の映画館―キネマの玉手箱』も、戦争映画を見ていた若者が映画の中の時代にタイムスリップしてしまうという内容です。
大林監督は「『HOUSE ハウス』も戦争は嫌だという映画なんです」と語っており、デビュー作から、遺作に至るまでずっと戦争を語り継ぐという意志で映画を作ってこられた方です。
大林宣彦、「何がなんでも戦争は嫌だと言い続ける」と映画作りのテーマ明かす(映画ナタリー)
日本のポップカルチャーに与えた影響の大きさも、戦争を語り続けたという点でも多くの人に尊敬されている偉大な映画監督の記念すべきデビュー作は、笑いと恐怖と驚きに満ちたファンタジーに、戦争への想いも込めた、現代人への貴重なメッセージなのです。
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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部