紀元前ギリシャの戯曲を現代に置き換えたスパイク・リーの風刺劇、映画『シャイラク』

女たちが平和のためにセックスを拒否!?

2020年、黒人青年が警官に殺されたことをきっかけに全米でブラック・ライブズ・マター(BLM)と呼ばれる運動が起き、アメリカ社会における根深い黒人差別の問題が改めてクローズアップされました。

差別が貧困を生み、貧困が犯罪を生み出すのは世の常。アメリカの黒人コミュニティではギャングの抗争が日常茶飯事な場所もあり、子どもが巻き込まれることもあるのです。

映画『シャイラク』は、ブラックコミュニティを代表する巨匠、スパイク・リー監督がギャングの抗争に巻き込まれた子どもの悲劇から起こる運動を描いた作品です。

争うことばかり考えている男たちに抗議するため、女性たちがある仰天の非武装運動を展開します。それは、男たちが武器を捨て抗争をやめなければセックスさせないという「セックス・ストライキ」でした。

本作のこのプロットは紀元前ギリシャの戯曲『女の平和』をもとにしており、人間の本質は現代も昔も変わっていないということを実感させてくれる作品です。
 

男たちの愚かさは紀元前から変わらない?

シカゴのサウスサイド。ギャングたちが日々抗争を繰り広げているこの街で、ある日ギャングのリーダーでラッパーのデミトリアスは、ライブ中に銃撃に遭います。来る日も来る日も抗争に明け暮れるデミトリアスですが、恋人のリシストラタはある日、抗争に巻き込まれて亡くなった幼い少女の母親を目撃。何とかしなければならないと一念発起したリシストラタは、仲間の女たち、さらに敵対ギャングの妻たちも集めて、平和を取り戻すべく運動をすることを提案。男たちが武器を捨て抗争をやめるまでセックスさせない「セックス・ストライキ」を実行します。

男たちは、はじめは高をくくっていました。そんなバカげた運動はすぐに挫折し、体がセックスを欲するだろうと。しかし、運動は次第に世界中に広がりを見せ、シカゴの女たちは軍の基地を占拠。貞操帯を着けて徹底抗戦を挑むのです。

非常に滑稽なプロットではありますが、作品のベースとなった『女の平和』もこのような内容なのです。基本的には喜劇であり、争いを止めることができない男たちの愚かさを嘆いた風刺劇なのですが、スパイク・リー監督はそこにアメリカの黒人差別の歴史や男女差別の歴史を読み込ませることで、極めて現代的な物語に組み替えています。

現実に内戦を止めたセックス・ストライキ

本作の監督スパイク・リーは常にアメリカにおける黒人差別の根深い構造について描いてきた作家です。アカデミー脚色賞を受賞した『ブラック・クランズマン』など近年でもその姿勢は揺るぎません。本作では黒人差別だけでなく、男たちの身勝手さと女性たちの強さにも焦点を当てており、さらに広い視野を持って制作した作品と言えるでしょう。

なぜ、スパイク・リーが紀元前の戯曲を現代に置き換えようと考えたのか。それは、今も昔も男たちが争い問題を起こしているという事実があるからでしょう。性と暴力の問題は、セクハラやパワハラ、DVなど様々な場面で見られますが、それは紀元前から続く普遍的な問題なのです。

このセックス・ストライキという奇抜な発想は、現実社会でも実行されたことがあります。2011年にノーベル平和賞を受賞したリベリアの平和活動家、レイマ・ボウィがセックス・ストライキを含む非暴力運動を展開し、14年続いた内戦を終結させたという実績を残しているのです。

一見、奇抜でコミカルな作品ですが、その芯は女性の強さと賢さを讃えています。男性優位な社会が是正されれば争いも減るのかもしれないという希望も感じさせてくれる、底抜けに面白い社会派エンタメ映画です。

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構成・文
杉本 穂高
編集
アプリオ編集部