『We Will Rock You』や『伝説のチャンピオン』など、世代を問わず誰もが聞いたことのある名曲の数々を生み出してきた伝説のロックバンド、クイーン。
ロックの歴史を変えた彼らの楽曲は時代を超えて愛され、全盛期を知らない若い人にも浸透しています。映画『ボヘミアン・ラプソディ』は、そんなクイーンのボーカリストであるフレディ・マーキュリーの半生を描き、日本では異例の大ヒットを記録。老若男女幅広い世代の支持を受け、2018年の興行収入ランク1位を獲得しました。
アメリカでは公開当初の評価は芳しくありませんでしたが、尻上がりに評価を高めてアカデミー賞にノミネート。主人公のフレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレックは主演男優賞を受賞しました。
フレディという世紀の天才の孤独と苦悩、クイーンの成功の裏にあった挫折や苦悩をドラマチックに描き、伝説の「ライブ・エイド」を再現したクライマックスが圧巻です。ウェンブリー・スタジアムの熱狂を見事に現代に蘇らせています。
天才フレディ・マーキュリーの実像に迫る
ゾロアスター教でペルシャ系移民の家庭に生まれた青年ファルークは、イギリス人から人種差別的な扱いを受けながらも、音楽に夢中になっていました。ある日、彼は「スマイル」のメンバー、ブライアン・メイとロジャー・テイラーに話しかけ、自分をボーカリストとして売り込みます。彼の見事な歌唱力を認めた2人は正式にファルークをバンドメンバーに迎え入れ、新ベーシストのジョン・ディーコンも加わり、バンド生活をスタートさせます。
ファルークは自身のルーツを嫌っており、名前をフレディ・マーキュリーと改めます。そして、フレディの発案でバンド名も「クイーン」とし、ファーストアルバムを自主制作。それがレコード会社の目に留まってデビューが決まり、彼らの躍進が始まります。
順調な音楽生活とともに、フレディは意中の女性メアリーと恋仲になっていきます。しかし、一方で、フレディは時折男性に惹かれることに葛藤を覚えていました。そしてある日、フレディはメアリーに自分はバイセクシャルだと打ち明けることに。しかし、メアリーは本当のフレディに気づいており、「あなたはゲイ」だと指摘し、2人は別れることになるのです。
孤独を深めるフレディは、それぞれ家庭を持つバンドメンバーとも衝突を繰り返すようになっていきます。そして、彼の元にソロ・デビューのオファーが舞い込み、バンド活動に疲れていたフレディはこのオファーを受諾。しかし、彼はやがて自分の本当の居場所はクイーンであり、バンドメンバーは家族なのだと気がつくのです。
物語は、バンドの成功と確執というラインと、移民の子であり同性愛者であるフレディの孤独と葛藤の2つのラインで進行していきます。メアリーとは別れた後も親友であり続け、フレディの心の支えとなっていました。移民であることで差別を受け、性的マイノリティでもあったフレディは二重に差別された存在でした。これは、そんな彼が本当の自分を見つけるまでの物語なのです。
そして、同性愛者であるがゆえに家族を持てないと思っていた彼がバンドこそが自分の家族だったのだと再認識していく形で、2つの物語が交差し、最後のライブ・エイドの感動的なパフォーマンスにつながっていきます。映画化にあたり、時系列を事実とは入れ替えている部分もありますが、ブライアン・メイが「内面は正確に描かれている」と評しており、フレディ・マーキュリーという不世出の天才の苦悩と栄光を見事に蘇らせた作品と言えるでしょう。
クイーンと日本の深い関係
クイーンと日本は深い関係にあります。彼らのデビューは1973年、日本では1974年に初めてレコードが発売されました。母国のイギリスでは大ヒットとはいかない成績でしたが、75年に初来日した際には日本ではすでに女性を中心に大変な人気になっており、空港には1200人ものファンが詰めかけたといいます。アメリカで本格的にブレイクしたのは80年代に入ってからだったそうなので、これにはクイーンのメンバーも驚いたようです。ブライアン・メイは当時を述懐して「僕たちは突然ビートルズになったようだった」と語っています。
「僕たちは突然ビートルズになった」とブライアン・メイが振り返ったクイーンの初来日(TAP the POP)
クイーンが日本の女性に人気だったのは、少女漫画から抜け出してきたかのようなルックスにあると指摘されますが、その華麗で心の琴線に触れる音楽が既存のロックとは異なる感性をもたらしたこと、そしてフレディの甘い歌声なども女性の心を捉えた要因であったようです。
そんなクイーンの映画が日本で記録ヒットとなったのは必然だったのかもしれません。この映画をきっかけに若い人にもさらにクイーンの名曲が浸透したでしょう。これからも彼らの楽曲は時代を超えて愛されるはずです。
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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部