音楽の力はすごい、そう感じることはありませんか。
一つの音楽との出会いが人生を変えることだってあります。映画『はじまりのうた』は、まさに音楽との出会いによって人生を変えていく物語です。
この作品の原題は『BEGIN AGAIN』。その名の通り、人生に一度挫折した人たちが、音楽によって繋がり、再び前を向いて生きていく姿を描いた作品です。主演のキーラ・ナイトレイがナチュラルな魅力で等身大の女性を演じ、さらに見事な歌唱力を披露していています。恋なのか、友情なのか、曖昧な感情で揺れ動く物語のバランス感覚も絶妙な、さわやかな人間ドラマです。
人生どん底の2人が音楽で繋がる
かつては名うての音楽プロデューサーだったダン(マーク・ラファロ)は、近年はヒット作も出せず、有望な新人も見つけられず、失意の日々を送っています。家族からも離れて暮らし、遂には仕事をクビになってしまいます。そんなある日、とあるバーで弾き語りの演奏に心を奪われます。
その演奏者はイギリスからやってきたグレタ(キーラ・ナイトレイ)。彼女は、恋人のデイヴ(アダム・レヴィーン)の楽曲が映画音楽に採用され、一緒にアメリカにやってきたのですが、売れっ子となり忙しくなったデイヴには別の恋人ができ、みじめな思いをしているところでした。ダンはグレタにプロデュースさせてほしいと頼み込みます。無名のミュージシャンと落ちぶれたプロデューサーである2人は意気投合し、アルバムを制作することにします。
しかし、お金のない2人はスタジオを借りることもできません。そこで、ダンはストリートでの演奏を録音するという手法を思いつきます。くすぶっているミュージシャンを募り、細い路地や駅構内などでゲリラ演奏を敢行、町の騒音をも音楽の一部として取り込み、見事なアルバムを完成させるのです。
次第に心を通わせていく2人は、ある夜に音楽を聞きながら、フラフラと街を歩きます。イヤホンジャックにスプリッターをつけ、スマートフォンのプレイリストをシェアする、それを2人で聞きながら、お互いの好みの音楽をシェアしていながら夜の街をさまようのです。そんな中、デイヴはグレタともう一度会いたいと連絡をよこし、ダンもまた妻と娘との関係を見つめ直していきます。
原題の通り、一度が失意を味わった2人が、音楽によってもう一度人生を取り戻す物語なのですが、シンプルで飾り気のないストーリーがかえって心地よさを感じさせる作品です。主人公の2人が互いにリスペクトし合う関係性がとても爽やかです。
1つのイヤホンジャックを2人で共有するためのスプリッターが効果的に使われているのが印象的です。スプリットとは分ける、分岐させるという意味ですが、ここでは互いの想いをシェアしてつなぐものとして用いられ、なおかつそのシーンは、それぞれの人生を歩んでいく物語の分岐点にもなっていて、繋がりながらも各自の道を歩んでいくことを象徴しているのです。
キーラ・ナイトレイ、アダム・レヴィーンの美声
この映画では、グレタを演じるキーラ・ナイトレイが自ら歌声を披露しているのも大きな見どころの一つです。女優として輝かしい実績のある彼女ですが、歌も上手いんですね。
さらにマルーン5のアダム・レヴィーンが本作で映画初出演を果たして、その美声を映画の中で披露しています。彼が映画の中で歌う『Lost Stars』はアカデミー賞の歌曲賞にもノミネートを果たしています。
この曲は、作中でキーラ・ナイトレイによっても歌われます。こちらもすごく素敵。
監督のジョン・カーニーは自身もミュージシャンで本作以外にも『ONCE ダブリンの街角で』や『シング・ストリート 未来へのうた』など、音楽を題材にした映画を作っています。いずれの作品も、シンプルなストーリーに心に響く音楽を載せた素晴らしい作品です。
青臭さを敢えて残したような作風が、かえって音楽への愛をより強く伝えています。音楽って本当に良いなと思える素敵な作品です。
動画配信サービスの「Amazonプライム・ビデオ」では、『はじまりのうた』が見放題です(2020年1月26日時点)。
構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部