ミクロな世界の大アクション、一味違うヒーロー映画『アントマン』

続編の『アントマン&ワスプ』と『アントマン&ワスプ:クアントマニア』にも注目

人にはいろんな欲望があります。もし自分の体が虫のように小さくなったら……と想像したことはありませんか。

マーベルのスーパーヒーロー映画『アントマン』はそんな人の欲望を叶えた、自分の体を自在に小さくできるヒーローが活躍する物語です。サイズ感の変更によって新しい感覚のアクションを作り上げました。1作目の大ヒットを受けて続編の『アントマン&ワスプ』(2018年)と『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023年)がこれまでに公開されました。

泥棒稼業で捕まり、妻と娘と離ればなれになってしまった普通の男が再起をかけてアントマンとなり、世界の危機を救うこの物語。他のマーベル映画とは一味違う、新鮮なアクション大作映画となっています。

小さくなると身近なこともすべてが災害級の大惨事に

この映画の一番のユニークなポイントは言うまでもなく、身体を自在に小さくできること。小さくなれば人間には入り込めない小さな場所でも潜入可能ですし、相手から捕えられにくいなど様々なメリットがあります。

一方で、スケールが変わってしまうことによって、身近なちょっとしたことでも大惨事となります。例えば、主人公のスコットが初めて小さくなる時に彼はシャワー室にいるのですが、1.5cmの小さな虫のサイズになってしまった彼にとっては、シャワーから流れる水は大洪水のように感じられます。

最も迫力あるアクションの見せ場も超高層ビルや飛行機など特別な場所ではなく、子ども部屋で展開されます。おもちゃのトーマスの機関車は小さくなってしまうと本物の電車と変わらないくらいの迫力で描かれています。

でも、よく考えてみると虫にはきっと普段の世界がこんな風に見えているのでしょう。単なる迫力のあるアクションだけじゃなく、私たちの日常では想像できない、ミクロな視点で楽しませてくれる映画でもあります。

小さくなる男のミニマムなドラマが魅力

本作はアクション大作ですが、家族の絆を描くドラマとしても見応えがあります。マーベルのスーパーヒーロー映画と言えば、壮大なスケールの大きな物語が多いのですが、この『アントマン』は続編の『アントマン&ワスプ』と『アントマン&ワスプ:クアントマニア』も含めて、ミニマムな家族のドラマに重点を置いています。

主人公のスコットはコソ泥で、刑務所に入っていました。出所後は娘に会うこともままなりません。そんな彼が自分の人生をやり直し、娘に会える人間になるためにヒーローになるのです。彼の戦う動機はもっぱら娘のためなのです。

他にも、アントマンのスーツを開発したピム博士(マイケル・ダグラス)と娘のホープ(エヴァンジェリン・リリー)は、ピムの妻が亡くなってから険悪な関係なのですが、2人の和解と父娘の絆を取り戻すのもストーリーの重要な要素になっています。

小さくなる技術を軍事に悪用しようとする男たちが登場するなど、世界の危機も描かれますが、それよりも普遍的な家族の絆の物語に重きが置かれているのが本作の特徴で、その姿勢は続編にも受け継がれています。

『アントマン』は小さくなるヒーローなので、物語もそうした小さな要素を大事にしているのが他のマーベルのスーパーヒーロー映画とは異なる点と言えるでしょう。

続編、そして他のマーベル作品への伏線も

本作は『アントマン』としてはシリーズ1作目となります。マーベルは他のシリーズも含めて1つの世界観を作る「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)」の考えを採用しているので、他のシリーズとの関わりや伏線も登場します。

アイアンマンことトニー・スタークの倉庫にアントマンが盗みに入るシーンもありますし、ピム博士がかつてS.H.I.E.L.Dのメンバーだったことも示唆されています。また、続編『アントマン&ワスプ』への前振りとして、ピム博士の妻が初代ワスプで、原子よりも小さい亜原子の世界に閉じ込められていることが描かれます。他のマーベルシリーズや続編を楽しむためにも見て損はないでしょう。

ヒーローでありながら、等身大の人間として、多くの人が共感できる作りになっているのが本作の強み。身近な大切な人のヒーローになりたいと思う気持ちは誰にでもあるはず。この映画はそんな気持ちを大いに刺激してくれる作品です。

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