ただ夢のために命をかけた男、411mの高さで綱渡りした男の実話を映画化『ザ・ウォーク』

ただ夢のために命をかけた男、411mの高さで綱渡りした男の実話を映画化『ザ・ウォーク』

『ザ・ウォーク』は、高度411メートルのワールド・トレード・センターの間を綱渡りで渡った大道芸人・フィリップ・プティ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)の実話を映画化したもの。命綱なしで2つのビルの間を予告なしに綱渡りをして、ニューヨーク中を驚かせました。

映画は、フィリップがなぜこんな無謀な挑戦を行ったのかを彼の半生を紐解くことで解き明かし、遠大な計画をどのように実行したのかを詳細に描いています。この行為は当然犯罪ですし、お金が得られるわけでもない、にもかかわらずフィリップは仲間を募り、何年もかけてこの計画を実行に移したのです。

「史上最も美しい犯罪芸術」と言われた、超高層ビルでの無許可の綱渡りを果たした男は、その境地に何を見たのか。そこには人間が生きるということの根源があったのです。

誰も達したことのない高みを目指す犯罪計画

フィリップ・プティは、フランス生まれの大道芸人。彼は幼い頃に見た綱渡りに魅せられ、自らも綱渡り師になることを決意します。はじめは独学で大道芸を学んだフィリップですが、より高みを目指して、有名な綱渡り師のパパ・ルディに弟子入りを懇願します。

ルディの公演に同行する形で、ロープの適切な貼り方などを教わりながら、彼はある一つの目標を立てていました。それは、近々完成するニューヨークのワールド・トレード・センターの間を綱渡りで渡ること。ある日、フィリップは新聞でその巨大な建造物のことを知り、雷に打たれたように惹かれていきます。フィリップはこの遠大な計画に賛同する友人を募り、数年がかりで緻密な計算を重ね、周到に準備していきます。

そして1974年8月6日。決行前日の夜、フィリップたちは警護の目を欺きビル内に侵入、夜通しかけて2つのビルにロープを渡します。このロープの渡し方もユニークかつスリリング。二手に分かれてそれぞれ屋上に侵入し、弓を射ってロープを渡し、しっかり固定するために補助用のロープも設置するのです。大胆不敵な犯罪なのですが、一方でものすごく緻密に計算されているのです。

そして8月7日の朝、フィリップは遂にロープに足をかけて地上411メートルのビルの間を渡り始めます。そこでフィリップは無我の境地ともいえるような心境に達するのです。しかも、一回渡っただけでなく、2つのビルの間を8往復もしているのですから驚くほかありません。

人類は南極にも宇宙にも到達しましたが、あの地上411メートルで、命綱もなにもなしに、まさにおのれの身体一つでロープの上に立ったのはフィリップしかいません。あの時、彼は人類史上彼にしか見えない景色を見たのです。映画は、それを巧みな映像技術で観客に体験させてくれます。

挑戦の後、フィリップは逮捕されます。裁判所が下した刑罰はニューヨークの公園で、無料で綱渡りの芸を披露することでした。現場で対応した警官も職務上連行するのですが、内心では感銘を受けていました。フィリップのこの行為は「史上最も美しい犯罪芸術」と言われていますが、多くの人々を感動させた犯罪だったのです。

挑戦することこそが人生

なぜこんな無謀なことに挑戦したのか、と聞かれてフィリップは「別に何も」とそっけなく答えています。ただ「挑戦することが人生だから」と彼は言うのです。 彼の挑戦は、人が生きることの意味を問い直すような何かがあるように思えます。お金でもなく、名声でもなく、ただ自分の夢のために生きる彼の生き様には多くのことを学べるはずです。

フィリップ・プティは1990年に赤坂ミカドビルの完成を記念したオープニングパーティに招かれ、綱渡りを披露したこともあります。2009年にも映画のPRのために来日し、渋谷の駅前で綱渡りを披露しています。

大道芸人フィリップ・プティさん、渋谷で「綱渡り」-アカデミー受賞作公開で(シブヤ経済新聞)

フィリップ・プティについての映画はもう一本あります。フィリップやそのほかの関係者の証言や当時の写真や映像を交えたドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』です。

本人の口から当時の心境や、入念な準備の詳細が語られ、何より実際のフィリップが411メートルの高さの綱の上で寝そべっている写真などが見られる貴重な作品です。『ザ・ウォーク』はフィクションですが、こちらは実際に屋上で撮影された写真も見られるので、本作と合わせて観るとより彼の偉業が実感できるでしょう。

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構成・文:杉本穂高

編集:アプリオ編集部