ドラマ『カルテット』は、偶然出会った弦楽器奏者4人が、冬の軽井沢で共同生活をしながらカルテットとして活動する姿を描いた人間ドラマ。好きなことで生きていける人にはなれなかった男女が、思い通りにならない人生を持て余しながら共に過ごす中で、次第にそれぞれがもつ憂鬱な秘密が明らかになっていきます。
珠玉の会話劇を手掛けたのは、『東京ラブストーリー』を皮切りに、『Mother』『最高の離婚』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』等の大ヒットドラマで数々の受賞歴をもつ脚本家・坂元裕二氏。まるで即興劇かのような自然で的を射たセリフの数々は、笑いや驚きを無理強いしない、自分の素の感情のまま向き合える大人のミステリーを見事に形作っています。
注目すべきは、とにかく洗練された脚本と、それを十二分に活かしきる俳優陣。ドラマが醸し出す雰囲気とは異なり、笑いの要素がかなり多い点に驚かされます。
例えば、高橋一生演じるヴィオラ奏者・家森が、唐揚げにレモンをかけるかかけないかで静かに熱く抗議するシーンや、男女の恋愛において大切な「行間」についてコント仕立てで力説するシーン、コンビニで「ウルトラソウル」と書かれたパンツを買ってしまったことの告白シーンなどは、至極冷静なその他3人の姿とドラマの舞台である静かな軽井沢の空気感との対比でニヤニヤが止まりません。
さらに、物語の本筋には直接関わらない、味のあるサイドストーリーが散りばめられているのも見どころの一つ。松田龍平演じる、ヴァイオリン奏者・別府が友達以上恋人未満だった女性と一区切りつける場面は、カルテットが友人として彼を支えた印象的なシーンです。彼女の結婚式で演奏することになった4人。教会で花嫁が退場する際、予期せずソロを促された別府が、彼女がカラオケでいつも熱唱していて、自分も無理矢理歌わされていた、SPEEDの「White Love」をヴァイオリンで奏でる姿にはグッときてしまいます。
「過程を楽しみましょうよ」と言わんばかりの濃密な会話劇の中で、4人の出会いが決して偶然ではないことを示唆するエピソードにゾクゾクさせられる本作。コンフィデンスアワード・ドラマ賞と脚本賞、ザテレビジョンドラマアカデミー賞・脚本賞も受賞した、誰もが認める大人の逸品です。
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笑い、涙、温もりの底に眠る深い秘密の物語
ヴァイオリニストとしてプロの舞台に立った経験をもち、いつも声が小さく控えめな早乙女真紀(松たか子)。著名な音楽一家に生まれ、ドーナツ会社に勤務しながらヴァイオリンを弾く別府司(松田龍平)。理屈っぽく、変なこだわりの多いヴィオラ奏者の家森諭高(高橋一生)。妙に嘘が上手く、チェロを弾く以外はほとんど寝ている世吹すずめ(満島ひかり)。
共に弦楽器奏者である4人は、都内のカラオケボックスで偶然出会い、別府の提案で、彼の祖父が所有する軽井沢の別荘を拠点にカルテットを組むことになります。
ある日、真紀はライブレストランでピアノを弾いて生計を立てている老齢のピアニストからレギュラー出演の座を奪う、という突拍子もない手法でカルテットの演奏の場を広げます。自信なさげでおとなしい真紀の大胆な行動に3人は驚きますが、真紀が必死になるのにはある理由が。夫もいて、最も生活が安定しているように見える真紀は、3人に驚きの告白をします。そして、この出来事を機にカルテット名は“Doughnuts Hole”に。
一方、4人が私的な会話を繰り広げる居間のテーブルの裏には、すずめが仕掛けた小型録音機が。真紀の様子をある人に報告することで報酬を得ているすずめにも、それをせざるを得ない暗い過去がありました。そして、部屋で一人パソコンの画面に映る真紀の姿を見つめる別府。男二人組に追われている様子の家森。
常に敬語でセンターラインを越えない関係でありながら、互いのパンツを洗濯しあい、同じシャンプーを共有し、毎晩美味しい食卓を囲む4人の男女。それぞれが重大な秘密を抱えながらも淡々と過ごす日々の中で、じわじわと情や特別な感情が生まれ始めます。
「悲しいより悲しいのはぬか喜びです」「この人には私がいないとダメっていうのは、大抵この人がいないと私ダメ、なんですよね」等々、真紀の核心をついた発言の数々は、男女の考え方の違いも浮き彫りにします。
秘密を知るほどに、複雑な人生が作ったそれぞれのキャラクターにさらに惹かれていく、小説のようなドラマ。エンディングで流れる、椎名林檎דDoughnuts Hole”「おとなの掟」がストーリーの後味をさらに引き締めます。行間を楽しみたい大人の為の熟成ラブ・サスペンスです。