ドラマ『あなたには帰る家がある』は、結婚13年目を迎えたある夫婦が妻の仕事復帰、夫の浮気などをきっかけに夫婦の絆を見つめ直す姿を描いた、シニカルでクスッと笑える大人のドラマです。
直木賞作家・山本文緒の同名小説が原作。平凡に見えて葛藤だらけのリアルな夫婦像を中谷美紀と玉木宏が、そんな彼らとドロ沼の関係に陥る訳あり夫婦、絵に描いたような昭和妻と時代錯誤のモラハラ夫を木村多江とユースケ・サンタマリアが好演しています。
夫は仕事が終わった後になぜすぐ帰宅しないのか。良かれと思ってしたことが何故妻の機嫌を損ねるのか。分かり合えなくて当然の元他人である夫婦を360度全方向から観察できてしまう、笑いと涙と「夫婦あるある」満載の、まさに大人仕様のエンターテインメントです。
突如訪れたピンチが転機になる夫婦の成長ストーリー
佐藤真弓(中谷美紀)は、住宅メーカー勤務の夫・秀明(玉木宏)と娘・麗奈(桜田ひより)の3人家族。家で何もしない夫に常日頃不満を感じつつ、麗奈の中学受験が無事に終わったことを期に、結婚以来13年ぶりの職場復帰を決意します。
体育会系でラフな性格の真弓とは違って、几帳面で細かい秀明。趣味のDVD収集に対するこだわり、冷蔵庫の賞味期限切れ食材など、真弓とは理解しあえない細々なことに逐一ストレスを感じては友人に愚痴る日々です。
お互いに相手には言わない不満を抱える中でスタートした共働き生活。昔とは様変わりしている職場になかなか馴染めず浦島太郎状態の真弓は、仕事でのミスをきっかけにストレスがピークに。相変わらず生活態度を変えない秀明に「パパっていつも自分の事しか考えてないよね」とたまっていた不満をぶちまけます。
一方、ますます家に帰りたくない病が深刻化する秀明。ある日、モデルハウスを訪れた茄子田夫妻の接客にあたりますが、高圧的な夫の茄子田太郎(ユースケ・サンタマリア)に従順に寄り添う妻・綾子(木村多江)と出会い、その控えめで儚げな雰囲気に心惹かれます。
そして迎えた佐藤夫妻の13回目の結婚記念日。関係を修復したいと願う真弓が秀明の好物であるメンチカツを揚げて夫の帰宅を待っている間、町で偶然綾子を見かけた秀明は彼女を車に乗せてしまい……。
緊迫シーンがどこか笑えるブラックコメディタッチ。頻出の「夫婦あるある」にも注目
真弓と秀明、真弓と綾子で手に汗握る壮絶なバトルが繰り広げられますが、ユースケ・サンタマリアがインタビューで「僕らが真面目に演じれば演じるほど滑稽」と語っている通り、続々出てくる修羅場が見方によってはすごくユーモラスなのが特徴的です。
浮気のほとぼりが冷めつつあるタイミングで「もしや、こういう時こそ挑んでみるべきではないのだろうか」とベッドで夜の誘いをかけようとする秀明に対して「お前そんなことでどうにかなると思うなよ……それ以上動くなよ。来たらぶっ飛ばす」と背中でささやく真弓の心の声にも思わず笑ってしまいます。
互いへの口には出さない鋭いツッコミがまさに「夫婦あるある」な佐藤夫妻。一方で「お前は幸せもんだな。誰のおかげだ?」「あなたのおかげです」と、現代においては消滅寸前の会話を繰り広げる茄子田夫妻は不気味です。「私、幸せです。でも、寂しい」と秀明に寄り掛かる綾子の「ヤバさ」が形作られた理由、夫婦そろってホラーすぎる茄子田家の秘密も気になるところ。
そんな中でも、「見て見ぬふりっていうのも、ありなのかもね」と相談する真弓に、「お母さんもね、ずーっとそうしてたのよ。そのうちにね、お父さんのこと好きな気持ちきれいさっぱり忘れちゃった。でも、一番最初にちゃんとぶつかってたら、何かが違ってたかもしれないわね」と母が自分の経験を語る短いシーンには、このドラマが伝えたい真のメッセージが込められているような気がします。
未婚・既婚問わず、些細なコミュニケーション不足が大きな溝に発展する怖さや夫婦の絆について考えさせられる、ありそうでなかった斬新なストーリーです。
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