小さい子どもを連れていると、子どもに微笑みかけたり、話しかけたりしてくれるのはいつもおばさん。でも、話が長すぎてなかなかその場を離れさせてくれないのもおばさん。基本、自分と他人との垣根が低く、相手の領域にズカズカ入り込んできてそのことに気が付かないけれど、いざという時に頼りになるのもまた、おばさん。
おばさんはいつの時代も最強です。慈悲深く、信じればルールそっちのけで自分の意思を通し、そして時に周りを巻き込んでわちゃわちゃする。世界広しといえど、人生経験豊富で行動力のあるおばさんこそが、不可能を可能にできる一番身近な存在なのかもしれません。
人気脚本家・宮藤官九郎が手掛ける話題のドラマ『監獄のお姫さま』は、そんなおばさん達に対する深いリスペクトと人生訓がたっぷり詰まった“おばさん犯罪エンターテイメント”。
訳あって女子刑務所で知り合った馬場カヨ(小泉今日子)、大門洋子/通称・女優(坂井真紀)、足立明美/通称・姐御(森下愛子)、勝田千夏/通称・財テク(菅野美穂)、小島悠里/通称・シャブ厨(猫背椿)の5人が、鬼刑務官の若井ふたば/通称・先生(満島ひかり)と組んで、冤罪を晴らすべくある男への復讐を企てる本作。元囚人のおばさん達が5年かかって作り上げた復讐計画は穴だらけで、のっけから失敗続き。その度にギャーギャー騒ぎながらむりやり事を進めていくおばさん達に、復讐相手であるイケメン社長・板橋吾郎(伊勢谷友介)が振り回されます。
さすがクドカン、セリフの一言ひとこと画面にテロップを出してもらいたいほど、今回も笑わせてくれますが、その脚本を見事に演じ切る豪華女優陣にも注目です。特に、しっかりしているようで詰めが甘い、弱キャラだけど一生懸命な主人公を演じる小泉今日子は新鮮。さらに、鬼刑務官を演じる満島ひかりが点呼を取るシーンは迫力満点で、物事に全く動じない様は今後女性ファンが増えそうな格好良さです。
ツッコミどころ満載。でも、おばさんを理由にすべての説明がつくという、笑って時にほろりとさせる女の人生物語。細かい演出の一つひとつに、おばさんに対する愛が込められた作品です。
動画配信サービスのParavi(パラビ)では、『監獄のお姫さま』の全話が見放題です(2018年7月17日時点)。
おちゃめなおばさん達の正義と再生の物語
馬場カヨ、女優、姐御、財テク、しゃぶ厨は、それぞれ殺人未遂、横領と詐欺、違法薬物不法所持、所得隠しと脱税、薬物中毒の罪で「自立と再生の女子刑務所」に収容されていた元囚人。
現在も服役中で大手乳製品メーカーの社長令嬢である江戸川しのぶ/通称・姫(夏帆)が、現社長の板橋吾郎に嵌められて逮捕されたことを知った5人は、再犯を憎む鬼刑務官“先生”の指導のもと、“姫”の冤罪を晴らすため一致団結して吾郎に対する復讐を決意します。
復讐の第1歩は、吾郎の息子を誘拐すること。人質解放の条件として、彼自身に公の場で自分がしたことを白状させようとしますが、さっそく全然違う子を誘拐してしまいます。
作戦の中心人物でありながら、一人あだ名を付けてもらえない可哀そうな馬場カヨ。「間違えて関係ない子さらった時のこと、ノートに書いてない!つかえねーなー!馬場カヨ!!」と詰められながらも、意地でなんとか息子本人の誘拐に成功します。
果たして、息子の為に吾郎は自分の過去をさらけ出し、6人は姫の冤罪を立証できるのでしょうか。そもそも、刑務所で彼女たちに何があったのか。何故罪を犯してしまったのか。それぞれの過去も気になるところです。
吾郎を演じる伊勢谷友介のイケメン社長っぷりが板に付いていて、完璧な男が振り回される姿はなかなかの見もの。さらに、第1話で“女優”と馬場カヨが戦隊ヒーローの着ぐるみを着つつ、ヒーローがまずしないであろう動きをしながら吾郎の息子を誘い出すシーンは必見です。“女優”がいちいち「あたし、女優よ~!」と言い訳する場面もだんだんかわいく思えてきます。
誘拐はしたけれど人質にすごく優しかったり、吾郎がふと見せた涙に士気が弱まってしまったり、誘拐犯らしからぬ優しさと人情味はおばさんならでは。罪を犯した後に、自分の為ではなく誰かの為に本気になれることの意味は何なのか。実は深いテーマを孕んだ本作。ワケありおばさん達の奮闘を通して、極めて明るく生きる意味について考えられそうです。