本当のワルは誰なのか、警察組織の腐敗を描く──映画『日本で一番悪い奴ら』

これが実話というのが信じられない。

この映画を観た多くの人はそう感じるのではないでしょうか。綾野剛主演の『日本で一番悪い奴ら』は、北海道警察の不祥事、通称「稲葉事件」を基にした実録犯罪ドラマです。原作は事件の中心人物だった稲葉圭昭自身が書いた『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』。柔道の腕を買われ、北海道警察で刑事となった若者が、警察とヤクザの癒着関係を知り、自らもその関係にズブズブになり、転落していく様を描いた作品です。

警察とヤクザがつるんでいるというのは、昔のヤクザ映画等にはよくある題材でしたが、それは映画の中だけでなく実際によくおこなわれていること。本作では本人の手記を原作にしているだけあって、その実態がかなり詳細に描かれています。犯罪検挙数を上げるために、自分たちが犯罪をしてしまう、そしてそれを上司も暗黙の了解のように容認しているなど驚くべき状態が描かれています。

それもすべて出世欲や、自己保身、そして組織全体を守りたいなど、誰にでもある感情から生まれるものだということをとても的確に表現しており、いかに人間が「内輪の論理」に因われていくかを描いていて、他人事には思えない部分が多々あります。

組織防衛と自己保身による「内輪の論理」

諸星(綾野剛)は、柔道の腕を買われて北海道警察の刑事となりますが、成績が悪く先輩刑事からも足手まとい扱いされる日々。それなりに正義感もあって先輩に言われたことを真面目にこなすのですが、要領が悪く、うだつの上がらない日々を送っています。

そんなある日、課のエース刑事・村井(ピエール瀧)から良い刑事は点数をとにかく稼ぐこと、それには暴力団とつるんで内部にスパイを持つことだと教えられます。その日から諸星は暴力団と緊密な関係になり、札幌の裏社会でも知られた存在にのし上がっていくのです。

数年後、東京ではオウム真理教による警察庁長官狙撃事件が起きます。警察庁のトップが撃たれるという事態に、全国の警察はメンツを守るため銃器対策に力を入れるようになります。北海道警察も銃器対策課を新設、諸星も配属されることになります。

諸星は自慢の裏社会ネットワークを通じて、銃を裏取引で出させて成績を稼いていきます。新設の課であることから成績を上げて存在感を示さないといけないため、上司も多少の違法には目をつぶっていました。そして、次第にそれはエスカレートし、ついにはわざわざ外国から銃を買わせて、それを検挙するというマッチポンプな状況を生み出していきます。それどころか、銃を買う資金捻出のために、覚醒剤の売買にまで手を出していきます。

この時の諸星や上司の理屈は、「どうせこちらが買わなくても、どこかでだれかが銃を買って日本に入ってくる。それならば、こちらが先に買ってしまえば治安は良くなる」という無茶苦茶なものでした。警察組織全体のメンツのため、そして組織の中での地位を守るため、何がなんでも良い成績を上げたい彼らは、犯罪を自分勝手な理屈で正当化していくのです。

こんな理屈は当然、組織の外では通用するはずがありませんが、組織防衛と自己保身によって「内輪の理論」が優先されてしまうのです。

純粋で真面目だから犯罪に走ってしまった

諸星はある意味、純粋で真面目な青年です。真面目すぎるから、刑事として良い成績を収めようと頑張った結果が暴力団との協力関係だったのです。そして、彼は義理堅い男でもあります。兄弟と呼び合う仲になる黒岩(中村獅童)がヤクザから足を洗う時には大金を工面し、若い山辺(YOUNG DAIS)やラシード(植野行雄)が困っている時も常にフォローします。

この映画では単純な悪人だから、犯罪に手を染めるという描かれ方はしていません。むしろみんな真面目で、夢を持っていたり、お世話になった人のために尽くそうと考えた結果、犯罪行為に走ってしまうのです。題名は『日本で一番悪い奴ら』ですが、その実態は意外にも気の良い連中なのです。

むしろ、本当に悪いのは誰なのか、と考えさせられます。諸星は覚醒剤所持と使用で捕まりますが、一連の北海道警察の不祥事で起訴されたのは彼だけです。

このような組織の腐敗が警察で起きていることに唖然とさせられるのですが、一方でそれによって人生を狂わされた者たちの切なさをも感じさせる物語です。諸星や黒岩たちはもっと別の形で出会っていれば、こんなことにはならなかったんじゃないか、そう思うとやるせない気持ちにさせられます。そんな哀愁もこの映画の大きな魅力です。

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構成・文:杉本穂高
編集:アプリオ編集部