「共依存」という言葉を知っていますか。誰かに依存されることで自分に価値があると思い込み、相手を支配し、また支配され続ける悪循環な人間関係。自分で自分を評価することができない「共依存」はとても自己中心的で、無意識のうちに相手の自立を妨げてしまいます。
ドラマ『きみが心に棲みついた』は、天堂きりんの人気コミックが原作の「共依存」ラブストーリー。自己評価が異常に低い主人公が、どうしても自分から縁を切れない冷酷な男と、厳しくも自分と誠実に向き合ってくれる男との間で揺れ動きながら成長していく、独特な三角関係を描いた作品です。
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自信のないキョドコが今日子としての自分を取り戻すまでの複雑なストーリー
下着メーカー「Lapoire」に勤める小川今日子(吉岡里帆)は、自分に自信がなく、人前で挙動不審になってしまうことから「キョドコ」とあだ名を付けられるほどおどおどした性格。そんな自分を変えたい、と思いつつ仕事には熱心で、会社の先輩からも一目置かれています。
ある日、いつも可愛がってくれる先輩・堀田(瀬戸朝香)の誘いで人生初の合コンに参加した今日子。テンパるあまり、「正直誰でもいいんですよ、ありのままの私とちゃんと恋愛してくれる人なら誰でも!」と叫んでしまい、周囲はドン引き。
ところが、その場にいた漫画編集者の吉崎幸次郎(桐谷健太)に「ありのままの自分って、努力したくないって言ってるようなもんでしょ?」と厳しく指摘されます。
「この人なら私を変えてくれるかもしれない」とうじうじしつつも、一度そうだと思ったら猪突猛進な性格の今日子。会ったばかりの吉崎にいきなり告白し、「甘ったれんな!」と一蹴されてしまいます。
そんな今日子の前に突然現れたのは、商社から出向してきた企画室長・星名漣(向井理)。女性社員の注目の的となるイケメンの星名は、過去に今日子を酷い目に合わせた大学時代の先輩。しかも今日子は今も、なぜか彼の呪縛から逃れられずにいます。
星名を卒業するべく、吉崎に「メールとツイッターを間違えてる」と言われるほど頻繁に連絡をし、好きな気持ちを伝えようとする今日子。ところが、同期の飯田(石橋杏奈)と星名が親しくしている様子が耐えられず、やっと吉崎と会う約束をしたにも関わらず、星名を引き留めてしまいます。
星名の度を超えた冷酷さと、吉崎のズバッと的を得た指摘の数々、さらに訳が分からないけれど、どこか考えさせられる今日子の珍行動。これほど先が読めないドラマも珍しいと言えるほど、あらゆる意味でソワソワしっ放しのストーリー展開です。
なぜそうなの?登場人物たちの背景がとにかく気になる面白さ
「きっとこんな私を受け入れてくれるのは星名さんしかいない」。なぜ今日子は星名から離れられないのか。そして、どうして星名は執拗に今日子を傷付けるのか。ひたむきな今日子に次第に心が揺り動かされていく吉崎は、この二人の関係をどう捉えるのでしょうか。
冒頭話で誰しも抱く疑問が、ストーリーが進むごとにじわじわと紐解かれていくところに、とにかく中毒性があります。
さらに、「私の本音はどろどろで、ぐちゃぐちゃで。なんていうか、卑劣な事ばっかり考えてます」と、ハチャメチャだけど嘘のない今日子に、「人間ってそういうもんだよね」と共感できてしまう部分も。
すべての発言がしっかりどもって、徹底した役作りがされている吉岡里帆の存在感はさすが。そして、星名を演じられるのはこの人しかいないと思わされるほど、向井理の狂気ぶりが板に付いていてかなり怖いです。
もう一つ注目なのが、今日子にとってのキーマンである吉崎の存在。「卒業って、終わりって言いたくない奴がごまかすみたいで格好悪いな」「努力すれば夢は叶うって、無責任な言葉嫌いなんだよね。そんなのうまくいった奴の結果論だから。でも、小川さんならできる気がする」など、小説家を目指していた彼の鋭い名言や励ましの言葉には何とも言えない説得力があります。
そして、吉崎が担当している漫画家・スズキ次郎(ムロツヨシ)と吉崎の掛け合いはもはやコント。必見です。
お仕事ドラマの視点に加えて、妬み・嫉み・コンプレックスなど、人間の心の闇に一歩踏み込んだ視点で男女を捉えたユニークな作品。星名の過去や冷酷な姿が明かされるシーンで必ず流れる劇中歌『偽りのシンパシー』(MONDO GROSSO)に背中がゾクゾクする、新しい感覚のラブストーリーです。