「自分の文章を使ってもらいたかったんでしょう? だったら喜べばいいじゃない」。追い詰められた売れっ子作家が思わず掴んでしまったのは、まだ誰にも知られていない若い才能。そして、才能に恵まれた無名の作家が出会ってしまったのは、「文壇の女王」のブランド力でした。
ドラマ『ゴーストライター』は、筆が止まってしまった人気女性作家が、小説家を夢見て上京してきた女にゴーストライター(代筆業)をさせてしまう、後戻りできない罪を描いたヒューマンサスペンスです。
「どんなに苦しくても期待に応えなきゃだめなの!こんなに苦しいなら死んだ方がマシだって思いながら書いてるの!」人を利用することで得るもの、そして失うものの他に、人にはない特別な才能をもつ女の、もがき苦しむ生々しい姿がテーマの本作。怖いけれど覗きたい、死に物狂いで夢を叶えた女性達の闘いと成長の物語です。
利用し、利用される関係が生む傑作の裏を描いたストーリー
遠野リサ(中谷美紀)は、30歳代にして「文壇の女王」の座をものにした小説家。押しも押されぬ人気作家のリサですが、以前のように筆が進まなくなってしまったことに人知れず苦しんでいました。
一方、小説家になる夢が諦められず、婚約者に無理を言って一人上京した川原由樹(水川あさみ)。自ら原稿を持ち込んだ駿峰社でリサのアシスタントを打診され、悩んだ挙句引き受けることに。
とてつもないスランプに、依頼された短い追悼文すら思い浮かばないリサ。由樹が書いた文案に素質を感じ取ったリサは、彼女に連載小説の続きのプロット(あらすじ)を書いてみるよう命じます。
由樹のプロットを元に肉付けした連載小説は大好評。リサは田舎に戻ろうとしていた由樹を引き留め、破格の給与と高級マンションを与えて執筆にあたらせます。
リサの諸々の事情を全て把握している駿峰社の編集長・神崎雄司(田中哲司)もまた、由樹の才能に目を付け、自分の小説を書いてみることを提案。極秘でリサのゴーストライターを続ける代わりに、本人名義での本の出版を約束します。
由樹に対する罪悪感に苛まれるリサに、「君が彼女を利用してるんじゃない。彼女が君を利用しようとしてるんだ」と吹き込む神崎。純朴だと思っていた由樹の狡猾さを疑うようになったリサの行動は、どんどんエスカレートしていきます。
完璧なリサの人間くさい一面と、闘う二人の友情に注目
「どれだけ賞賛を浴びても、羨ましがられても、認められても、ずっと不安だった。どれも本当に欲しいものじゃないから。あなたには言ってもわからないと思う」
リサの顔を見ても、娘だと気が付かない痴呆症の母。高齢者住宅で暮らすそんな母に語りかけるシーンは、リサの過去と本音を浮き彫りにします。
20歳代でシングルマザーになり、在宅で始めた仕事がきっかけで、息子との距離が生まれてしまったリサ。実の母親とも、息子とも上手く関係を築けない憂鬱な姿は、特別ではない一人の女性として彼女をどこか身近に感じます。
映画『嫌われ松子の一生』など、壮絶な人生を生きる女性の演技にとにかく説得力がある中谷美紀。凛とした透明感はそのままに、筆が乗ったら髪を振り乱してキーボードを叩く姿は生来の作家そのものです。
「私がいないと何にもできないくせに」。水川あさみ演じる素朴な由樹が、ある種の小賢しさを身に着けると同時にファッションやルックスが洗練されていくのも面白いところ。女の成長ってどこかそういうものかもしれないな、と思ってしまうこともあります。
原稿料を払って人気作家を囲い込むための赤字覚悟の小説雑誌。すべての赤字を売れ筋の1冊で回収する現実。
出版業界を取り巻く厳しさと、作家にのしかかる想像を絶するプレッシャーを目の当たりにすると、ただただ、文章で生きることのシビアさを痛感します。
同じ志をもった女性同士が取っ組み合いをしたり、罵ったりしながら、強い絆で結ばれていく「雨降って地固まる」ストーリー。凄まじい闘いの、一体どこで絆が生まれるのか。最後まで想像できない展開が見どころです。
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