分離プランで「リファービッシュ」製品にかかる期待、変化する中古スマホ市場

2019-06-11 14:34
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分離プランで「リファービッシュ」製品にかかる期待、変化する中古スマホ市場

モバイル研究家/青森公立大学経営経済学部准教授 木暮祐一氏

世界のモバイル市場を長年にわたって見続けてきた「モバイル研究家/青森公立大学経営経済学部准教授」の木暮祐一氏による講演が、5月31日の「ワイヤレスジャパン2019/ワイヤレスIoT EXPO 2019」で開催された。タイトルは「完全分離で期待される中古・再生スマホ流通市場」。2019年秋、日本の携帯業界では端末と回線の完全分離がスタートする。分離プランの義務化により、ユーザーは端末と回線(キャリア)を自由に組み合わせて使えるようになる。

木暮氏は、完全分離が中古スマホ市場への追い風になると期待している1人。ここ5年ほどは、日本で生まれた中古スマホの流通経路を追いかけて、世界中を取材してきたという。講演では、私たちが知らない中古スマホの行く末や、完全分離以降に考えられるスマホの市場予測などを聞くことができた。

およそ6割は、使わないスマホを家に置きっぱなし

使わなくなったはスマホ

使わなくなったはスマホはおよそ6割の人が自宅に置いたままだという

木暮氏は最初に、使わなくなったスマホを日本のユーザーがどう処分しているのか調査した結果を紹介した。

それによると、「下取りサービスを利用した」「家族・友人に譲った」などの回答が並ぶ中、トップは「自宅に保管している」で、およそ6割を占めていた。ゲオは「埋蔵携帯」という呼び方をしているが、「家に眠っている『お宝』がもう少し外に出てくると、中古スマホ市場も活性化してくるだろう」と木暮氏は話す。

キャリアへ下取りに出した端末は香港経由で世界各国へ

使わなくなったスマホの流通経路

使わなくなったスマホの流通経路について木暮氏は次の2つのルートを例に紹介した。

  • 中古ショップで買い取ってもらう
  • 通信キャリアで買い換える際に下取りに出す

中古ショップが買い取る場合のルートはシンプルだ。壊れて直せない一部のスマホを除き、基本的には自身の店舗で再販する。

例えば、木暮氏が取材した「イオシス」では、全国の店舗やオンラインで買い取った端末を江東区にあるリファビッシュセンターに集め、専用ソフトを使ったデータ消去や清掃を行なった上で、中古品として店頭に並べる。地方では、ゲオの買い取り力が強いという。全国3箇所のセンターに中古スマホを集約させ、本社が各店舗への分配数をコントロールしている。

ちなみに、最初の調査結果でもわかる通り、日本では買い取りに出す人は少ないようだ。70人ほどの聴講者がいた講演会場で、木暮氏が「スマホを中古ショップに持って行ったことがある人?」と聞いても、手を上げたのは4、5人だった。

中古ショップで買い取る場合、流通経路は基本的に国内で完結する。一方、キャリアへ下取りに出した端末は、海外へ流れていくという。最初にたどり着く場所は香港だ。「いろいろ調べてみると日本を出たスマホは、香港に運ばれているらしいということがわかりました。例えば、ソフトバンクはグループ会社の『ブライトスター』、ドコモでは『アシュリオン』といった企業を通じて、香港で中古スマホを取り扱うオークション業者に流れているのです」。

オークション業者は、仕入れたスマホを海外の中古スマホ販売業者に売るわけだ。香港が選ばれる理由は、関税がかからないからだという。木暮氏が、香港のオークション業者を取材したところ、スマホが100台前後入った段ボールが山のように積んであり、オークションでは数百万円単位の現金が飛び交っていたそうだ。

深センで見た「中古iPhone」が「新品未開封(に見える)iPhone」に戻るまで

香港のオークション業者で売りさばかれた中古スマホは、主にアジア各国や中東などに向かうことがわかったという。木暮氏は、流れ着く先の一つである中国の深センでその現場を見たそうだ。

「秋葉原の10倍ほど規模がある電気街の一角に、スマホを扱う業者が集中しているエリアがあります。ビルの1〜2Fはコンシューマー向けにスマホのアクセサリなどを販売しているショップが並んでいますが、上層階には、中古ショップ向けの業者が入っています」(木暮氏)。

そこでは、香港のオークションなどで集めた中古スマホのほかにも、パーツやアクセサリ、スマホを修理する専用の機械など、スマホを再生するために必要なあらゆる製品が売られている。集めたパーツを持っていけば修理をしてくれる店まであるという。中古ショップの業者は、ここで必要なスマホやパーツなどを買い集めて、新品同様のスマホを作るのだ。

「例えば、画面が割れていたり、パーツが取れているiPhoneでも、別のショップで必要なパーツを買って持っていけば組み上げてくれます。また、付属するアクセサリや、新品スマホの画面に張り付いているシール、外箱などを専用に取り扱っているショップもあります。さらに、外箱にビニールを被せてくれる専門のショップまであるので、あっという間に新品未開封のように見えるiPhoneができてしまうわけです」(木暮氏)。

外箱に貼られているシールのアレンジもお手の物で、スマホのストレージサイズや流通先の言語など合わせて選択できる。日本から流れてきたスマホはSIMロックがかかっている場合もあるが、1台あたり500円程度で解除してくれる店まであるそうだ。中国の田舎では、こうして「新品未開封(SIMフリー)」の冠をつけたiPhoneが結構出回っているという。

調べてわかった世界の中古スマホ流通マップ

世界の中古スマホ流通マップ

木暮氏によると、日本は「中古スマホを最初に生み出す国」だという。

「日本のほかに、アメリカやEU、韓国などは中古スマホの『輸出国』で、先に紹介した香港やドバイなどのオークション業者に流れていきます。その先は、アジア各国や南米、アフリカなどに『輸入』されます。特に南米やアフリカなどは、3Gどころか、2Gのネットワークを使っている地域もあるので、中古のスマホでも十分快適に使えるのです」(木暮氏)。

商業ベースで大々的にスマホの再生を行なっている企業も

深センの事例だけを聞くと、日本できちんとした保証が付くスマホを買っている私たちは怪しく感じてしまうが、中古スマホを集めて新品同様に再生する工場を商業ベースで大々的に運営している企業もあるそうだ。工場は主にフィリピンにあるという。理由は香港と似ており、輸入したパーツを加工して再び輸出するだけであれば、関税がかからないからだ。

フィリピンにはスマホの再生をおこなう工場が何社か集まっているが、中にはAppleが認定している工場もあるという。AppleのHPに不定期で掲載されている「認定整備済製品(CPO)」と書かれたiPadやMacBookなどは、この認定工場で整備された製品だ。

木暮氏によると、iPhoneのCPO品は、時々MVNO事業者が掲載しているのを見かけるという。「多分、MVNOもiPhoneを売りたいから買ってくるんでしょうね」と木暮氏。

Appleの認定工場には入れなかったそうだが、別の工場を取材すると、過去に見たスマホメーカーとほとんど変わらない製造ラインが並んでいたという。

「工場では、集めたスマホをネジ一本まで分解して洗浄します。その後、スマホメーカーと同じ製造ラインに乗せて、一からパーツを組み上げていくのです。もちろん純正のパーツを使っているので、たとえメーカーが見てもわからないそうです」(木暮氏)。

このように、中古品や初期不良品を整備して新品同様の状態に再生した製品は、「リファービッシュ製品」と呼ばれ、メーカーが販売している新品より安く手に入れることができる。Appleなど、スマホメーカーの保証はないが、代わりに工場が保証を付けているという。また、米国の場合は、通信キャリアが再生工場から仕入れたリファービッシュ製品に、キャリア認定のCPOを付与して販売しているケースもあるそうだ。

リファービッシュ製品

木暮氏は、2017年に開催されたCeBITでリファービッシュ製品を見つけたそうだ。iPhoneの前に置かれた札には「Refurbished iphone」と書かれている。通常「iPhone」などと印字されている裏面にはなにも書かれていないが、各国の仕様に合わせて好きな文字を入れられる

リファービッシュ製品の国内流通に期待

海外では保証付きのリファービッシュスマホが出回っているが、日本で見かけることはほとんどない。木暮氏は、修理業社が完全分離を機に、日本でもリファービッシュスマホを流通させてくれることを期待しているという。現状、修理業社では、画面割れやバッテリーの劣化といった不具合を修理してユーザーに戻すだけだが、壊れたスマホなどを集めてリファービッシュ製品として新品同様に作り直してくれれば、中古スマホより安心して使うことができる。

「今後は、割安なスマホの需要が高まると思います。日本人は『中古スマホ』と聞くと品質や経年劣化などの面で警戒心が強いかもしれませんが、保証を付けたリファービッシュ製品を国内の修理行業者が流通させてくれれば、安心できる端末として広がっていくのではないかと期待しています。日本では総務省が「登録修理業者制度」を施工しているので、登録業者にはチャレンジしてほしいですね」(木暮氏)。

街中には無許可で運営している修理業者は無数にあるが、総務省認定の登録業者であることをしっかりアピールした上で、リファービッシュ製品を販売すれば、「怪しい」というイメージを払拭できて、中古スマホへの心理的ハードルも下がるということだろう。

完全分離以降の売れ筋モデルはハイエンドからミドルレンジに?

最後に木暮氏は、分離プラン以降に日本のスマホ市場がどう変わっていくかについての予測を紹介した。日本の行方を占う上で、参考になるのがお隣の韓国だという。

「韓国は日本より狭く勢いがあるので、日本より半年から1年ほど早くさまざまなモバイルサービスがスタートします。その韓国では、数年前から分離プランがスタートして、スマホはすべてSIMフリーになりました。ただ、キャリアの端末割引合戦にブレーキがかかって、価格が上がったので、売れ筋モデルがハイエンドからミドルレンジへシフトしています」(木暮氏)。

韓国では2019年の4月に5Gがスタートしているので、最新のスマホも並んでいるそうだが、10万円を超えると手は出にくいようだ。そのため、サムスンの「Galaxy A30」やHUAWEIの「P20 lite」といった、ミドルレンジ以下のスマホが売れているという。そのような背景から、各キャリアでもミドルレンジのラインナップを強化しているそうだ。

「日本でも各キャリアが夏モデルを発表していますが、私が見た感じだとミドルレンジ以下のスマホを充実させている印象があります。今後は、日本も韓国と同じような流れを辿るのではないでしょうか。ただ、現状ミドルレンジ以下のスマホは、ほぼAndroidです。日本ではいまだにiPhoneの人気が根強いので、分離プラン以降にどうなるかは引き続きウォッチしていこうと思います」と木暮氏は話す。

分離プランがスタートすると選択肢が広がってうれしくなる一方、大手キャリアの対応によっては、最新機種やハイエンドスマホが手に入りにくくなる懸念もありそうだ。木暮氏が話すように、国内でも完全分離を機にリファービッシュ業者が登場することで、高品質なスマホが安く手に入るようになれば、「新品」にこだわる人も減っていくかもしれない。

構成・文:藤原達矢

編集:アプリオ編集部