独特なファッションに身を包み、謎めいていて、先の行動は誰にも読めない。例えば『探偵物語』の工藤俊作のように、物語になる探偵は世間とは違う次元を生きているような気がします。
ドラマ『探偵が早すぎる』は、犯罪防御率なんと100%、全身全霊で事件を未然に防ぐ超先回り思考の探偵を描いたコメディ・ミステリーです。
史上最速の探偵・千曲川光は、事件を起こさない天才。突如5兆円の遺産を手にした女子大生・一華を守るため、彼女を狙う刺客の気配を察知し、暗殺計画を片っ端から阻止します。「やられる前に、やり返す」のスタイルが生んだのは、桁外れな防御スピード。一華は守られていることすら気が付きません。
とにかく常人離れした千曲川は、時に白馬の王子様風、そして時にジャック・スパロウ風と、毎度突飛なスタイルで登場し、一華に感謝されるどころか引かれっぱなし。そんなおもしろ過ぎる探偵を演じるのは、「脇役ブーム」の火付け役・滝藤賢一です。どこかニヒルで狂気めいた役のイメージが強い俳優さんですが、今回はまた違った味のある狂いを見せています。
果たして千曲川は一華を最後まで守りぬくことができるのか。そして、必殺「トリック返し」に訪れる「トリック返しのトリック返し」とは。たっぷりの笑いと少しだけセンチメンタルが詰まった新しい探偵物語です。
5兆円女子とおかしな探偵が繰り広げるサバイバルゲーム
十川一華(広瀬アリス)は、一見よくいる普通の女子大生。幼い頃に母親を亡くし、家政婦の橋田政子(水野美紀)と2人きりで生活をしてきました。ある日の学校帰り、一華は何者かに背中を押され、道路に突き飛ばされます。一命は取りとめたものの、重傷を負いギプス生活を余儀なくされる一華。
やっとギプスが外れた頃、なぜか橋田は一華を都内の高級ホテルに連れていきます。そこで一華を待ち受けていたのは大陀羅(だいだら)一族。橋田は、先日急死した一華の父親がこの大陀羅家の次男で、その遺産5兆円の相続権が一華にあることを打ち明けます。父親が何者かを知らなかった一華は事の大きさに驚きますが、自分を襲った事故が大陀羅一族の企みであり、遺産を相続することで今後も命を狙われ続けるという、ショッキングな事実にさらなる衝撃を受けます。
橋田はそんな一華の命を守るため、風変わりな探偵を雇っていました。彼の名前は千曲川光。一華を轢き殺すことに失敗した大陀羅一族の長女・朱鳥(あけどり/片平なぎさ)は、息子たちと組んで、今度は一華の毒殺を目論みます。一華の行動を徹底的に調べあげた上での完璧な計画でしたが、またもや未遂に。「なぜ失敗に終わったか不思議でしょうがないだろう」と、すべての計画を事前に見抜いていた千曲川が、雇われ実行犯の前に姿を現します。
滝藤賢一と広瀬アリスがおもしろ過ぎる
原作は、本格ミステリ作家クラブ主催『本格ミステリ大賞』の常連候補・井上真偽の同名小説。小説では千曲川と一華がほとんど接触しない設定ですが、ドラマの最大の見どころは、この2人の絶妙な掛け合いです。
一華を演じる広瀬アリスのコメディエンヌとしての才能が開花。本人曰く「7割ほどアドリブ。ほぼフリートーク」という状態での千曲川とのツッコミ合い、さらに四角四面な家政婦・橋田とのやり取りは「間」も完璧で、思わず声を出して笑ってしまいます。
千曲川は終始変人ですが、彼ならではのダンディズムが明るいストーリーに深みをもたせます。遺産の相続放棄を検討する一華に「ならば君に用はない」と冷たく言い放ちつつ彼女から絶対に目を離さないところや、亡くなった母を思い続ける一華を影からそっと見守る姿など、ふと見せる千曲川の素の表情にぐっときます。
そして、実はかなりオシャレ度の高い千曲川ファッションにも注目。一見無頓着なように見えますが、派手な柄シャツの着こなしや難易度の高い同系色使いなど、ユニークで媚びないセンスが放送中も話題を呼びました。
トリックの返り討ちとコントのような会話をずっと観ていたくなる、喜怒哀楽すべてが揃った満足度の高いコメディドラマです。
動画配信サービスのHulu(フールー)では、『探偵が早すぎる』の全話が見放題です(2018年9月20日時点)。