人生がうまくいかないと感じている人に薦めたい、「小休止」という考え方──小休止のすすめ(今週のおすすめ本)

人生がうまくいかないと感じている人に薦めたい、「小休止」という考え方──小休止のすすめ(今週のおすすめ本)

27歳で個人事務所を作って独立し、月の売上最高額が6000万円だった過去を持つタレントのヒロミ。彼は、10年間のブランクを経て再ブレークを果たしました。その成功の秘訣は「小休止」。26歳という若さで、史上最年少の上場企業社長となった藤田晋も、変化の激しいビジネスの世界で周囲に振り回されることなく、日常生活に小休止を取り入れたことで成功し続けています。本書は、そんな彼らがすすめる、小休止の考え方や生き方、「人生の休み方」の極意を紹介。

「今の仕事に疲れを感じている」「少し違う方向に人生の舵を切ってみたい」「休みがうまく取れない」などと考えている人は、小休止が必要かも。小休止を一度して、立ち止まってじっくり周囲を眺めてみると、自分を客観的に見つめられるようになり、新しい生き方につながる道が見えてくるかもしれません。

参考文献:『小休止のすすめ』(ヒロミ、藤田晋著/SBクリエイティブ〔2019年1月出版〕)

小休止が必要だと感じたタイミング

先輩や目上の人を「おじさん」や「チャン付け」で呼び、タメ口を叩くという生意気な芸風で人気を博したタレントのヒロミは、27歳の1992年に個人事務所を作って独立し、トップアイドルと結婚。デビューしてから20年間、40歳になるまでレギュラー番組が途絶えることはなく、テレビ欄には常に名前があるような人気のタレントでした。

しかし、30歳代の終わりごろから自分が周囲から必要とされなくなっていることを感じはじめ、徐々にレギュラー番組が減っていきました。「今までどおりにいかないかもしれない」と察知した時、気のせいだと考えてその場に踏みとどまるか、あるいは何かが起きると身構えて対策を練るか、さまざまな選択をする人がいます。当時のヒロミは「すがりつくように粘るような、みっともない真似だけはやめよう」と後者を選択。テレビの世界から離れて今後のことを考えているときに、藤田晋をはじめ、若い起業家たちと出会って遊びを教えたことがきっかけで、ジムの経営者をするというビジネスの世界に挑戦する決意をしました。

藤田晋が小休止を始めるきっかけになったのは、楽天の三木谷浩史社長の言葉でした。史上最年少の上場企業社長と報じられ、225億円もの資金調達に成功。会社の拡大や高収益を目指していましたが、インターネットビジネスの株価が下がり、一時は上場時の10分の1にまで株価が下がったことも。そんなある日、買収の危機にあったサイバーエージェントを10億円の出資で救った楽天の三木谷浩史社長から、「外野の声に惑わされることなく自分の信念を貫けばいい。時間をやり過ごすためにも何か趣味でも持ったら?」とアドバイスを受けます。

長期戦である経営の仕事で根を詰め込みすぎないよう、適度に息を抜くために遊びや趣味を持って小休止の時間を作った方がいいということだと解釈した藤田氏は、小休止をはさみつつ株価の動きに惑わされずに先行投資を続け、黒字化に成功。仕事は刺激が多いけれどそれが続くわけではなく、刺激を求め続けたり、経営に根を詰めすぎてノンストップで仕事をすると危ういということも感じたと言います。

根を詰めすぎると何がいけないの? 「生き急ぎ」の間違いと正しいタイミング

自分の思い描く成功を手に入れて、できるだけ早く成果を出したい、だからどんな時も200%で立ち向かう。そんな信念をもって仕事をしていたヒロミは、100%も力を出していない周囲の人たちを見て、苛立ちを感じていたと言います。バラエティー番組の収録は午後から始まることが多く、スケジュールを調整すれば午前中が開くため、釣りや水遊び、ゴルフ、クレーン射撃など、1日の時間を有効に使うために、朝から遊びに行っていました。そのため、ジムを経営し始めた当初は、100%の気持ちと力を出し切っていない仲間を見て、「こいつら働かないな」「え、休みが欲しいの? 週に2日も休んでどうするの?」「働いたらお金になるし、次にもつながるのに?」と疑問に思っていたそうです。

しかし、彼らと働く中で、今までは自分でも気が付かないうちに疲弊していたこと、10年の小休止をして120%や200%の力を出し切る働き方がいつまでも続かないことや、常に100%である必要がないことに気づきます。200%で突っ走ると成果は出ても周囲の人を置き去りにしてしまうと気付き、80%くらいの力で働くことを心掛けるようにしたらうまくいくようになりました。

藤田晋も、新卒入社した会社には始発で出社して始業時間が始まるころに営業に出かけ、終電ぎりぎりまで仕事をしていた経験が。そのため、ヒロミ同様「俺は200%でやっているのに、なんで周りは100%も出していないんだろう?」と思っていたそうです。ゴールデンウィークや夏休みなど、周囲が休むときは差をつけるチャンスだと思って休むことなく働き続けていました。しかし、そんな働き方をしていたのは20歳代だけで、今は適度に小休止をはさみ、メリハリをつけているとのこと。ただし、勝負どころでは休みなく仕事をし、そこで得たリードを守っていく方法をとっています。

勝負どころの見極めは、自分の置かれた環境を客観的に眺めると見えてきます。例えば、就職や転職をした1年目。最初に評価が上がれば、2年目、3年目へ向けて追い風が吹きます。適度な小休止も必要ですが、勝負どころを見極めて、わき目も振らず猛烈に集中し続けることも重要です。

小休止をして見えてきたもの

ヒロミは、自分のことを信じてもらいたい相手や、これからも深くつきあっていきたいと思う相手とゆっくり話したいときに、遊びの場所に誘います。なぜなら、会議室でじっくり話をするよりも、遊びながら話すと本音が出るうえに、お互いに尊敬し合えるから。普段とは違う時間の流れや、非日常的な空間で、ほかの人ができないことをサラッとやって見せると、それだけで尊敬されます。

小休止の遊び場では、業界の違いや肩書の差、会社のしがらみや関係もなくなります。普段とは別の世界に入ることで新たな人間関係が生まれ、年齢に関係なくつきあえる仲間ができるのも魅力です。大人になると、フラットな付き合いができる仲間と出会う機会が減って新しい友達ができにくくなるため、どんなに仕事が忙しくても遊びをはさんだほうが良いと考えているためです。若手の経営者に釣りを教える中で、自分にないものを持った尊敬できる人たちと話をするだけで勉強になったと言います。

藤田晋にとって遊びの時間は、事業に対してはやる気持ちをやり過ごすのに大切な小休止。インターネットビジネスの世界は、ブロードバンドやスマートフォンが普及するなど、確実に勝負になりそうなタイミングがやってくるため、客観的に「ここだ!」と判断できるところで勝負に出ます。しかし、いろいろな人に出会い、仕事に注力していると肝心の勝負どころの見極めを間違えることも。さほど重要ではない案件でも「他社が動いているから」「目新しいキーワードだから」と動いてしまい、市場規模の小さいところに勝負をかけようとしていることがあるのです。そんなミスをなくすためには、あえて興味をそらすことが重要。勝負どころまで待つためのクールダウンが遊びの場という小休止なのです。

遊びを選ぶのに大切なのは、熱中できるもの。なぜなら、熱中できるものほど興味をそらす効果が高く、仕事を忘れられるからです。また、目の前の仕事を忘れていると先々のチャンスが見えてくることも。釣り仲間のエイベックスグループの松浦勝人氏と船の上で事業の話をしたことがきっかけで、事業を始めるにあたって不足していたパーツを自社から提供できることに気づき、定額制音楽配信サービスの「AWA」が誕生しました。

小休止の場では普段と別の世界に入ることで新たな人間関係が生まれ、熱中し、興味をそらした結果、新たなアイディアに気づくこともあるのです。

【Kindle版】小休止のすすめ
【書籍版】小休止のすすめ

構成・文:吉成早紀

編集:アプリオ編集部