2020年度から大学入試改革が始まり、従来とは異なる方法でテストがおこなわれるといわれています。これらのさまざまな要因が重なり、いま中学受験の人気が高まっています。特に首都圏では、4年連続で受験者数が増加。親世代の頃と違っているのは、男女御三家に代表される伝統名門校やニューウェーブ校、大学付属校、都立中高一貫校など、志望校の選択肢が増えたことです。そのため、わが子はどの学校が合っているのか、どこに進学すべきなのか迷っている人が多いのではないでしょうか。
本書では、私立中高一貫校の「新名門校」と、今も昔も変わらぬ人気を誇る伝統校の「旧名門校」を2つの軸として、特色別に5つのジャンルに分類。その学校の歴史や背景だけでなく、学校関係者や在校生、卒業生の声をまじえた、各校のリアルな姿を紹介し、いま本当に行くべき学校と受験の新常識を解説しています。
また、中学受験を迷っている人向けに、昔から名門として人気の国立大付属や、最近注目を集めている公立中高一貫校、現在の地方の旧名門校や新名門校も紹介。ここでは、なぜいま中学受験が注目されているのかということから、旧名門校と呼ばれる6校の特徴と、学校選びのコツを紹介します。
参考文献:旧名門校VS.新名門校(矢野耕平著/SBクリエイティブ〔2018年12月出版〕)
なぜ、いま中学受験が熱いのか?
近年の中学受験人気の要因は、大学入試改革にあります。2020年度から、従来の大学入試センター試験が廃止されて「大学入学共通テスト」が実施され、受験生の「思考力・判断力・表現力」を見る内容へと変わっていくと言われています。また、民間の英語検定試験を活用し、科目によっては記述式問題の占める比重が高くなることも。高校生が新学習指導要綱下で学び終える2024年度から「大学入学共通テスト」の実施科目や内容もさらに変化するともいわれており、これから大学入試を迎える子どもたちはもちろん、その保護者達の不安も大きくなっています。
さらに、2016年度の大学入試から実施されるようになった、文部科学省の「大学合格者数抑制策(定員の厳格化)」によって、大学入試への不安がより募りました。これは、私立大学において大学入試で合格者を出しすぎないようにと指示したもので、早慶をはじめとする多くの大学が合格者数を激減させています。これにより、大多数の高校では前年よりも大学合格実績がガクンと落ちたと言われています。さらに、2018年5月に参議院本会議で可決された「地域大学振興法」には、都心への学生集中を避けるために、東京23区にある私立大学の定員増を原則10年間禁止するという内容も盛り込まれていました。つまり、より大学への入学が厳しくなっているのです。
このように、大学入試が難化したことによって脚光を浴びるようになったのが、私立中高一貫校です。特に、昨今人気を博しているのは、エスカレーター式に大学までの道を提供してくれる「大学付属校」。大学の付属ではない私立中高一貫校でも、民間運営の私学のため、変化する大学入試に柔軟に対応できるという期待を持たれて、多くの学校が受験者数を増やしています。
中学受験過熱時代を経験した両親や祖父母も、中学受験人気の要因に
日本は少子化が進行しているため、今後受験者数自体が減っていくと安心している人もいるかもしれませんが、都心部への人口の一極集中が進んでおり、首都圏の中学受験マーケットは少子化の影響を受けづらいのが現状です。
以前は「中学受験」というと一部のごく限られた子どもたちが挑む世界でした。しかし、よく考えてみると、今の小学生の親世代も中学受験が過熱した時代。この時期は、小学校・中学校の学習指導要綱が改正されたり、大学入試センター試験が導入されたり、公立中学で偏差値追放(偏差値による進路指導や業者テストの禁止)などが起きています。そのため、公教育に不信感を抱き、主に首都圏において私立中学入試に挑戦する子どもが激増。当時中学受験を経験した世代は、現在40歳前後で、今の小学生の親世代ですから、自分が中学受験を経験したのであれば、わが子も同じルートでと考えるのは必然です。
もちろん、当時小学生だった親世代に中学受験をすすめた今の子どもたちの祖父母も、孫の中学受験に協力的になります。実際に、2013年度の税制改正において創設された贈与税の「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」という制度の影響もあって、昨今は子どもたちの学費や塾費用を祖父母が負担するケースが目立っています。そのため、孫の進路に意見をする場合もあり、「そんな学校、聞いたこともないから受験させるのはやめなさい」などと、志望校を決める際にトラブルになることも。
大学入試改革だけでなく、現在の教育環境は激変しており、教育手法も急速なイノベーションが起きています。たとえば、答えのない問いに対して子どもたちに思考錯誤をさせつつ学びを深化させる双方型形式の「アクティブラーニング」や、タブレット端末や電子黒板を駆使した「ICT授業」、「読む」「書く」に加えて「聞く」「話す」に重点を置き始めた英語教育などです。
私立の中高一貫校、とりわけ「新名門校」の中には、この「新たな教育手法」を大胆に取り入れて人気を高めているケースもあります。一方、創立以来受け継がれている教育理念という軸を堅持しつつ、普遍性を持った教育を希求し続けている「旧名門校」も多く存在しています。これらの中から、ぜひ「これだ!」と思える、わが子に合った学校を選んでほしいものです。
旧名門校の男女御三家の特徴と、学校選択のコツ
今回は、今も昔も変わらぬ人気を博す「旧名門校」の特徴を紹介しましょう。旧名門校を語るうえで欠かせないのが、男女御三家と呼ばれる6校です。「男子御三家」は、麻布、開成、武蔵の男子進学校で、桜䕃、女子学院、雙葉の女子進学校が「女子御三家」と呼ばれています。この6校は首都圏の中学受験生のあこがれの的であり、各校の大学合格実績も凄まじいものです。
たとえば、開成は1982年度大学入試から37年間、東京大学合格者数ナンバーワンで、麻布も1953年度より65年以上に渡って東京大学合格者数ランキングの全国トップ10に入り続けています。女子校の桜䕃は、25年間東京大学合格者数全国トップ10入りを果たし、武蔵、女子学院、雙葉も東京大学をはじめとした国公立大学や早慶上智などの難関私立大学に多くの合格者数を毎年輩出しています。
しかし、男女御三家の在学生や卒業生の話では、どの大学も大学入試対策に特化した指導はほとんどおこなっていないとのこと。開成の卒業生曰く「東京大学に進学するのが当たり前という雰囲気があり、勉強はやって当然」。それは女子校トップの桜䕃も同じで、卒業生のインタビューでは「先生の博学さに圧倒されることが多かった」という声が上がり、授業内容もハイレベルなのだそうです。また、卒業生によると「東大に行きなさい」と指示する教員は両校ともに皆無だったとのこと。ほかの4校も、大学受験対策には特化したところはなく、教員が自校の難関大学合格実績を高めるための指導や誘導は一切おこなっていないそうです。優秀な子どもがコンスタントに入学してくる環境があるからこそ、そのような姿勢が貫けるのだと言えます。
とはいえ、それぞれの学校には各校独自のカラーやクセがあります。そこで、男女御三家各校の在校生の特徴をまとめてみました。
- 麻布:拘束がほとんどなく自由な環境が与えられるため、自分の考えをしっかり表現できる個性にあふれた生徒が多い傾向があります。
- 開成:勉強をゲーム感覚で楽しめる生徒たちが揃っており、体育会気質で長幼の序を重んじた学校生活を送っています。
- 武蔵:アカデミックな授業で探求心を培い、「自ら調べ、自ら考える」学習姿勢を持った生徒たちが集っています。
- 桜䕃:息をするように勉学に励む生徒がほとんどで、7割近くの生徒が理系分野に進んでいます。
- 女子学院:自由を謳歌し、自ら責任を持って行動する生活を送っています。「人は人」で群れることをよしとしないサバサバとした人間関係が構築される傾向が。
- 雙葉:語学教育に力を入れているお嬢様校です。内部(付属小学校出身)と外部(中学校入学組)が混在しており、人間関係が複雑で上下関係も厳しい特徴があります。
中学受験を志す子どもたちはまだ小学生で、自分を客観視できる年齢ではありません。そのため、学校に入学できたはいいけれど、校風や周囲の人間が合わなくて病んでしまったり、つらい思いをする可能性もあります。したがって、偏差値や大学合格実績といった偏差値だけでなく、各校の校風やカラーがわが子にどんな中高生活をもたらすのか、しっかり親が考えて、子どもに合った学校を選ぶことが大切です。
これから、わが子の学校選びをする保護者の人にはぜひ、いろいろな学校の説明会に足を運んでいただくことをおすすめします。そこで耳を傾けるべき重要なポイントは、「中高6年間で、どんな子供に育てたいと学校側は考えているか」。多感な中高生活を過ごすうえで、学校側がどのようなスタンスで教育をするのかを把握し、高校を卒業したときのわが子のイメージが、立派な人間像となれるような学校を選んでほしいものです。
構成・文:吉成早紀
編集:アプリオ編集部