我が子の将来は大丈夫? これからのAI時代を生き抜く子どもの育て方──AI時代の子育て戦略(今週のおすすめ本)

「我が子は、AI時代で生きてゆける子どもに育つのだろうか」と、疑問に思いながら子育てをしている人は多いのではないでしょうか。人工知能(AI)技術の高度化によって、将来は多くの仕事がAIに取って代わられると言われています。以前は、「いい大学に行かせること=理想の子育て」とされ、一流大学に行けば一流企業に就職ができ、幸せになれると思われていました。

しかし、時代が大きく変わり、従来は成功とされてきた路線が、今後も有効であり続けるとは限りません。これまでの常識では通用しないことはわかっているけれども、自分の子どもをどのように教育すればよいのかわからずモヤモヤしている。そんな人のために、マイクロソフト日本法人元社長でイノベーターでもある著書の成毛眞氏が、AI時代を生き抜くための子育て方法を紹介しているのが本書です。子どもの才能を見つけるために気を付けたいことや、これからの大学の選び方、子どもにやらせるべきことなど、さまざまな教育法を解説しています。

参考文献:『AI時代の子育て戦略』(成毛眞著/SBクリエイティブ〔2018年6月出版〕)

好きなことで才能を発揮してほしいけど、どうやって才能を見つけるの?

「子どもを東大に行かせるのが正解ではないような気がするけど、どうすればよいのか?」という問題意識に対し、答えはわからないながらも「何か好きなことも見つけて、才能を発揮して生きていって欲しい」と願っている。頭では分かっていても、実践できている親はあまりいません。今の教育制度は受験の才能によって選別をしているために、確率的に受験勉強をさせておいたほうがよさそうだと考えてしまい、「勉強しなさい」「宿題はやったのか」と子どもたちをしかりつけてしまいがちです。

ではいったい、どうやって子どもの才能を発掘すればよいのでしょうか。実は才能は、遺伝の影響を強く受けています。親子の顔が似ていたり、身体的な特徴が似通っているだけでなく、日本ハムファイターズにドラフト1位入団した清宮幸太郎選手の父親が、元ラグビー選手の清宮克幸氏であったり、宇多田ヒカル氏が藤圭子の娘であることからもわかるように、親の才能も少なからず遺伝に関係しています。実際に、慶應義塾大学教授である安藤寿康氏の研究で、音楽や執筆、数学、スポーツといった分野での遺伝子の影響はほぼ8割以上あるということが判明しています。

しかし、素質が受け継がれていても、必ず一流になれるわけではありません。よく、「才能+努力」が必要だと言われますが、実は「素質+のめり込む才能」が正しいのです。いくら素質があっても、モチベーションがなければのめり込むことはできません。勉強ができる人は勉強が好きだし、歌が上手い人は歌うことを好みます。子どものころから夢中でマンガを描いていた人がマンガ家になっているものです。この、のめり込む能力も親に言われて身につくものではなく、やはり遺伝しか言いようがありません。

勉強も同じで、東大に合格した人のほとんどが、ロールプレイングゲームのように楽しんで勉強をしているうちに成績が向上したと話しています。そのため、受験の才能のない子どもに、無理やり勉強をさせたり、受験をさせるのはナンセンス。子どもが受け継ぐ才能は受験以外にも、スポーツや音楽、美術、文筆、工芸などたくさんあります。道は無数にあるのだから、1つは他人より傑出している分野があるはず。今では、いい大学に行く以外の選択肢が増えているので、才能を発揮できる分野を探して伸ばしたほうが賢明です。

子育ては、「ハマるもの探し」をすべし

子どもにどんな才能があり、どんな道に進むと幸せかを考えるときに重要なのが、親が自分自身を見つめ直すことです。親世代は、子どものころから受験勉強ばかりしてきたため、受験の才能に関しては自覚的ですが、当然ほかにもさまざまな才能があるはず。過去を振り返って、自分が本当に好きだったことや得意だったことなど、自分にどんな才能や適性があったのか考えてみると、子どものころから細かい手作業が好きだった、絵を描くのが好きだったなど、受験勉強以外の才能を思い出すでしょう。

しかし世の中には、自分で自分の才能に気付いていない人がたくさんいます。特に注意したいのが、大企業に勤務するビジネスパーソンです。なぜなら、最初から自分の適性に合った仕事に就いているわけではなく、自分の好き嫌いや適性に関係なく必要な部署に配属されるからです。そこで長年キャリアを積むと、向いていないにもかかわらずそれなりの実力がついてしまうため、「自分って営業が好きだったのかも」と思い込んで自分で自分をだまし始めます。今就いている仕事と、本来好きだったことはまったく関係ない可能性があるので、過去の自分が好きだったことを考えるときは、いま興味のあることとは切り離して考えるようにしてください。

自分の過去の才能を考えることのほかに、子どもにたくさん習い事をさせてみるのも有効です。ポイントは、子どもがやりたいという習い事を何度もやらせてみて、続かなかったらすぐやめさせること。親の中には、一度始めたものは最後までやり通すべきだと考えている人もいると思いますが、その昭和的な根性論だけで成功するとは限りません。根性は、「やりたくないことをやる力」とイコールです。やりたいことをやり切るのと、やりたくないことを頑張るのとでは成功率や楽しさがまったく違います。やりたくないことをやり抜く力を身に付けて、やりたくない職業を一生全うする人生を目指すわけではないので、習い事をなんでもさせて、のめり込む才能を見つけるべきです。

子どもにはゲームをさせよう

AI時代になると、真っ先に文系脳の人がくいっぱぐれ、理系脳の人が生き残るようになります。ここで言う理系脳とは、理工学部などを卒業した理系などではなく、新しいものが好き、世の中の変化が好きという感覚のこと。ドローンやVR、最新のiPhoneなど、新しいガジェットが出ると聞くと、いち早く飛びつくタイプが理系脳の持ち主と言えます。対して文系脳とは、決まったアイスクリームしか食べないなど、新しいものに興味を持たない、変化に対応できない人のことです。特に最近は、プログラミング教育などが話題ですが、新しいデバイスとプログラミングを学ぶ機会は必要です。プログラミングの考え方を理解していれば、仕事のAI化にも難なく対応できるため、子どものころからプログラミングに触れさせるのは必須と言えます。

これまで「受験勉強はほどほどにして子どもが興味を持つことをとことん追求させよう」と言ってきました。しかし、自力で興味の対象を見つけられる子どもは20%程度しかいません。そこでおすすめしたいのが、ゲームです。ゲームなら、熱中する子どもは多いでしょう。また、現代のゲームを攻略するには、自分でいろんな工夫をする必要があるため、親が思っているよりはるかにクリエイティブな作業と言えます。2016年10月に掲載された『日経サイエンス』の「ビデオゲームで認知力アップ」という記事では、日ごろからアクションゲームをする人は、注意力や迅速な情報処理能力、課題の切り替えの柔軟性、頭の中で物体の回転を思い描く力など、さまざまな認知機能の向上が心理テストによって実証されたと発表しています。ゲームで培った能力がビジネスにも応用できるといわれるようにもなっているのです。

著者にもし、小学生の子どもがいたとしたら、2017年3月に発売された『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(任天堂)をすすめるとのこと。アクションRPGといえば、「与えられた場所に与えられた武器を持って戦いに行く」というイメージを持ちがちですが、いまはまったく様相が違うのです。例えば、ユーザー自身が「焚火で木の矢に火をつけて、矢で飛ばして攻撃する」というオリジナルの攻撃を思いついて、攻撃ができるのです。なぜなら、ソフトの中に物理エンジンが搭載されているため、「火は熱い」「強風は物を吹き飛ばす」という自然界の現象がゲーム内にそのまま反映されているからです。すべてのオブジェクトに重さや硬さなどのデータが伴っていて、発火温度の条件や、放物曲線や空気抵抗などの計算も自然界とまったく同じなので、ゲームが本物の自然界シミュレーターになっているのです。

ゲームをする時、子どもは攻略サイトやYouTubeなどをみて攻略法を分析し、自分であらゆる工夫をしながら進めていきます。つまり、トライ&エラーやPDCAを無意識のうちに実践しているのです。こういった能力が、将来必ず生きてきます。

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構成・文:吉成早紀

編集:アプリオ編集部