黄金時代の推理小説を現代にアレンジした映画『ナイブズ・アウト』の魅力

ミステリー好きにはニヤリとさせられるネタがたくさん

1910年代後半から1930後半ごろまでの約20年間は、探偵小説の黄金時代と呼ばれています。

この頃に活躍した最も著名な推理小説化といえば、ミステリーの女王と呼ばれたアガサ・クリスティでしょう。『オリエント急行殺人事件』や『ABC殺人事件』など数多くのミステリーを残し、映画化された数も枚挙にいとまがありません。

この時代の推理小説は、洒落た探偵に豪華な屋敷や客船など、ゴージャスな雰囲気と欲望うずまく殺人と人間模様が堪能できる、独特の雰囲気があります。

そんな古典的な推理ものを現代に蘇らせたのが、映画『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』です。凄腕の探偵、豪華な屋敷に遺産相続をめぐる遺言状、そして密室の死体など、推理ものではおなじみの要素がてんこ盛り。それでいて、現代的な要素もしっかり盛り込まれており、殺人事件と欲望絡みの遺産相続が話の中心にもかかわらず、爽快感すら感じさせてくれる作品です。
 

アガサ・クリスティの名作を彷彿とさせるプロット

一代で成功した推理小説家のハーラン・スロンビーが85歳の誕生日の翌日、喉を切り裂かれた状態で死亡しているのが発見されます。誕生日パーティには親族一同の他、看護師のマルタも出席していました。誰が犯人なのか、それとも自殺なのか、警察の捜査は難航。そんな時に、正体不明の人物が雇った探偵のブノワ・ブランが捜査に加わります。

家族に聞き込みをした結果、家族のメンバーはそれぞれ、ハーランとの間にトラブルを抱えていることが判明。誰もが殺害の動機を持つ中、探偵ブノワは家族の事情をよく知る看護師のマルタに捜査への協力を依頼します。

探偵ブノワとマルタによる捜査が進むなかで、ハーランの遺言状が公開されます。そして、状況はさらに複雑になっていきます。なんと、ハーランは財産のすべてをマルタに相続させると遺していたのです。事態は混沌としていき、新たな真相が明らかになっていきます。

本作のミステリーとしての特徴は、序盤と終盤で謎が変わっていくところでしょう。終盤の謎に向かって、様々な伏線がクライマックスに向かって集約されていく展開が見事の一言。監督と脚本を務めたライアン・ジョンソンの手腕が光ります。

ミステリー好きにはニヤリとさせられるネタがたくさんちりばめられているのも特徴です。密室の遺体はミステリーの常套ネタですし、遺産相続をめぐる物語も定番です。探偵が女性とともに捜査をし、遺言状で事件が進展するのは、アガサ・クリスティの『ねじれた家』のオマージュでしょう。他にもアガサ・クリスティの作品へのオマージュと思えるネタがたくさん盛り込まれています。
 

一家の差別意識をえぐり出す

本作は、古典ミステリーをただなぞるだけに終わらず、現代的な要素も入れ込んでいます。一つにはマルタが移民の娘であるという点で、一家からひどい扱いを受けるという点です。

表向きには、ハーランを献身的に介護したマルタを「家族の一員」だと言うのですが、いざ相続のことになると、自分たちの財産をかすめ取る汚い移民だと罵るのです。表向きは寛容なふりをして、その実、移民排斥の感情を強く持っている一家なのです。本作は、古典的なミステリーの手法で、差別感情を浮き彫りにしているという面があるわけです。

本作はすでに続編の製作が決定しています。新たなスター探偵の誕生を予感させる極上の作品です。

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構成・文
杉本 穂高
編集
アプリオ編集部