法律がなかったら生活が成り立たない? 物語で学ぶ法律入門(今週のおすすめ本)

法律がなかったら生活が成り立たない? 物語で学ぶ法律入門(今週のおすすめ本)

「法律」という言葉を耳にすると「六法全書」や「憲法」などが連想されます。「弁護士などになりたい人が学ぶ学問」「難しそう」「なじみにくい」と思っている人が多いかもしれませんが、法律は、私たちの生活と密接にかかわっているのです。個人や会社が経済的にうまくいかない場合には破産法などの「倒産法」、昨今話題の「働き方改革」など会社で働く人々には労働基準法などの「労働法」など、現在の日本では2000もの法律が制定されています。

本書の著者は、青山学院大学で法学部教授(税法)の木山泰嗣です。法律を学ぼうと思っているビジネスマンや法律系の資格取得を目指している人、法学に興味がある中高生、法学を学ぶ大学生などに向けて、とっつきにくい法律を最初に学ぶ入門として書かれています。

本書では読みやすいように物語形式で解説しています。物語は、主人公が魔法使いによって「法律のない世界」に飛ばされるところから始まります。その後に六法の必要性と基本的な内容の説明を読み、法律の条文の読み方やポイント、時事ネタを使って法律を学んでいく、というスタイルで六法(憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法)の基本を理解することができます。今回は憲法と民法についてざっくりと説明します。

参考文献:『「六法」の超基本がわかる物語 もしも世界に法律がなかったら』(木山泰嗣著/日本実業出版社〔2019年3月出版〕)

「憲法」のない世界の物語

主人公である高校生のジュリは、魔法使いジャスによって「憲法のない世界」に連れて行かれ、主人公は家族や友達と接することでストーリーが展開していきます。その中では、銀行員の家系に生まれた中学生が、パイロットになりたいと主張しただけで逮捕をされたり、許可をもらわなければ自由に引っ越しができない世界が広がっていました。

おかしいことをおかしいと進言する自由や、創作物をつくる自由も保障されない世界。また、その状況を容認している周囲の人々に不信感を覚えながら、主人公は元の世界に戻れるよう力を尽くしていきます。

憲法がなかったら人権を守れない?

憲法のない世界では、思ったことをしゃべった銀行員の息子が逮捕されてしまいました。これは「言論の自由」が認められていないからです。今の憲法では「思想・良心の自由」(日本国憲法・19条)や「表現の自由」(日本国憲法・21条)が認められているため、思ったことを述べたり書いたりしても逮捕されることはありません。

この世界では銀行員の家系は銀行員にしかなれず、「職業選択の自由」(日本国憲法・22条)がないことになります。日本国憲法・22条には、「何人も、公共の福祉に反しない限り、住居・移転及び職業選択の自由を有する(2項は略)」と定められているので、自分がなりたいと思った職業に就くことができるのです。

また、憲法第22条には「居住・移転の自由」も認められているので、許可をもらわなくても自由に引っ越しができ、許可に賄賂のようなお金が必要になることもありません。

このように憲法は、国家が個人の自由を奪わないよう、「人権」つまり「自由」を定めています。自由を認めることを「保障する」と言いますが、憲法が保障している自由は「精神活動の自由」(「思想・良心の自由」「表現の自由」「信教の自由」「学問の自由」など)、「経済活動の自由」(「職業選択の自由」「住居移転の自由」「財産権」など)、「人権の自由」(「奴隷的拘束からの自由」「刑事手続き上の権利」)の3つがあります。この3つの自由のうちのどれか1つが欠けると、「人間らしい生活」を送ることはできないと言われています。このように、憲法は「人権保障のための仕組み」をつくっているのです。

「民法」のない世界の物語

民法のない世界での物語は、中学生同士のカップルが結婚をしたり、マンションの二重売買が成立してしまった場合に先に買った人よりも後に購入した人が優先されてしまったり、借金をして返済をすることなく大富豪になったと主張する人が出てきます。

民法は、近大国家に生まれ変わる過程で明治維新を果たした日本が、フランスやドイツの民法を参考に制定されました。憲法は小学校の授業などで勉強をすることもありますが、民法は学校で教えてもらえないため、理解していない人がたくさんいます。少しわかりにくい民法ですが、簡単に言うと、「人と人の関係をまとめたルールブック」なのです。

民法には、人だけではなく会社のような人の集まりも含まれており、人と同じように会社も「法人」として民法が適応されるようになっています。このように、会社も人として扱われることで、財産を所有でき、借金もできるようになるのです。このほかにも民法は、権利や義務、結婚や離婚、遺産相続や財産分与などを定めています。

民法がないと人と人との争いが絶えない

物語の中では、中学生同士のカップルが結婚するというシーンがありますが、今の日本では、民法の規定によって男性の場合は18歳以上、女性の場合では16歳以上でなければ結婚できません(民法・731条)。ただし、2022年4月から婚姻適齢は男女とも18歳以上になります。中学生同士であればこの婚姻適齢を満たしていないため、結婚ができないのです。

また、物語の中では、主人公の父親が先に売主から中古のマンションを購入し、入居をしていましたが、ある日、同じ売主から同じマンションを主人公の父親よりも高額で購入した人物が現れ、明け渡すように言われてしまいました。このように、同一の売主が複数の人に同じ不動産物件を売却することを「不動産の二重譲渡」といい、刑法上では横領に値する可能性が高い犯罪行為です。この場合、民法ではどちらの買主が優先して不動産の所得権を取得するかを決めることが重要になりますが、この点について、下記のように規定しています。

「民法・177条」

不動産に関する物権の得喪(取得と喪失)及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

「物権」とは、所有権のことで、民法206条によると、使用、収益、処分を自由にできる権利を指します。つまり、あとから購入した人物が、マンションの所有権を取得するためには、「登記」をしなければ、第三者(主人公の父親)に対抗することができないことになります。登記とは、「不動産登記」と呼ばれ、法務局でその不動産の所有者などの履歴等が登録されているものです。したがって、民法のある世界では、登記をしていない後からマンションを購入した人物が、主人公の父親にマンションの所有権を主張することはできないのです。

この物語のように、法律がない世界を想像すると、ゾッとするでしょう。法律があることで、私たちは快適に暮らすことができるのです。これを機に、法律について興味を持ち、六法の大まかな仕組みや考え方などを学びたいと思った人はぜひ読んでみてください。

著者・木山泰嗣氏のコメント

法と道徳の違いは、「強制力」の有無にあると言われています。たしかに、法令違反の行為が裁判の対象になれば、損害賠償金の支払を命じられたり、刑事罰を科せられたりすることもあります。そのため、「法」には、人々の行動を規律する「行為規範」としての側面があると、「法学入門」の教科書などで説明されています。

しかし、わたしたちは、毎日の生活で「法」を意識した行動をしているのでしょうか。

本書では、だれもが1度は聞いたことのあると思われる「六法」の一つひとつについて、そのごく基本的なことを解説するものです。ただし、その方法としては、既存の本とは異なり「法のない世界」というフィクション(物語)を活用しました。

「もしも、○○法が、この世界になかったら……?」という架空のストーリーに「正しい答え」はありません。一般にむずかしいイメージのある「法の世界」ですので、シリアスに考える趣にはせず、コミカルで親しみやすいライトノベルのような小説を描きました。

年齢を問わず、「法学」に興味をもっている方に、「この世界」を体験していただければ嬉しく思います。

【書籍版】「六法」の超基本がわかる物語 もしも世界に法律がなかったら

構成・文:吉成早紀
編集:アプリオ編集部

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