人々の働き方や雇用が変わる「ギグ・エコノミー」とは?

現代において、人々の働き方や仕事の内容は、かつてないほど多様化しています。今回紹介する『ギグ・エコノミー襲来』の著者であるマリオン・マクガバンは、これまで正社員として企業に雇われていた働き方は減る一方、仕事はますますプロジェクト単位に切り分けられ、雇用形態も変化していると話します。その言葉を裏付けるように、アメリカ国内で実施された調査によると、2005〜2015年の間にフルタイムで働く労働者の数はまったく増えていない一方で、派遣など代替的な就労形態で働く人は67%増加しているのです。

そんなアメリカでは、現在「ギグ・エコノミー」の規模が拡大しています。「ギグ(Gig)」とは、映画撮影や演奏会といった一時的で期間が定まっていない「案件単位の仕事」を意味するキーワード。従業員が企業に所属して定年まで勤めるような、従来の雇用とは異なる働き方をする人々が増えるようになったことから生まれる新たな経済的価値のことです。マリオン・マクガバンは、今後「ギグ」の案件数がさらに増え、それに対応するインディペンデント・ワーカーと呼ばれるフリーで仕事を請ける労働者の重要性がますます増すと話しています。

本書では、会社員という従来の雇用関係に縛られず、ギグを獲得して職業生活を自由にコントロールするために、個人が意識するべきことを解説しています。

参考文献:『ギグ・エコノミー襲来』(マリオン・マクガバン著(訳:斉藤裕一)/CCCメディアハウス〔2018年11月出版〕)

「ギグ(Gig)」の定義とは?

最初に「ギグ(Gig)」とは何かを考えていきましょう。辞書サイトのディクショナリー・ドット・コムで検索してみると、「1.ジャズやロックのミュージシャンの出演契約。通常は短期間のものを指す」「2.あらゆる種類の仕事。特に短期間、あるいは期間が不確かなものを指す」と表示されます。

1つ目は、アメリカでジャズが人気を博した1920年代に広く使われていました。一晩限りでも1カ月間でも、ミュージシャンはバンドのメンバーとして出演する仕事を「ギグ」と呼んでいたそうです。2つ目は、特に大恐慌のさなか、企業が正社員ではない日雇いの労働者を使うようになる中で広まり始めたとされています。

著者のマリオン・マクガバンは、ギグという言葉を現代に当てはめて、ドライバーからフリーのアーティスト、暫定のCEOまで、分野を問わず期間が不確かな仕事であると定義しています。そして、そのギグを支えるために進化した企業やビジネスを「ギグ・エコノミー」と呼んでいます。ギグ・エコノミーの代表的な企業が、配車サービスを運営する「ウーバー(Uber)」です。技術の進歩により、価値が低いサービスにも大規模な市場が成り立つようになったのです。

ギグという言葉自体は1920年代から使われているように、決して新しいものではありません。例えば、映画業界では、作品(ギグ)を作るたびにさまざまな役割を持つ人が集まり、完成すれば次の作品に移っていくという働き方を長年続けています。Uberもビジネスモデルは革新的ですが、世界経済フォーラムの報告書では、「人々を仕事に結びつけるデジタルなフォーマットは新しいが、臨時就労や自由業という形態は新しくない」と指摘しています。

なぜギグは増えているのか?

ギグが増えている理由の一つに、「正社員」という形式の契約制度が崩れつつあることが挙げられます。1980年代から90年代にかけて広がったレイオフ(一時解雇)や配置転換により、会社勤めも安泰とは限らないという考えが広まり、ギグを求めてフリーランスという立場で働く人が増加しているのです。

テクノロジーが急速に進歩したことで、ビジネスのサイクルが劇的に縮まっていることも要因です。ソーシャルメディアやモバイルアプリの普及、クラウドへの移行が進んだ今、企業は超高速で活動しなければ、チャンスを掴めず置き去りにされてしまいます。スピードが鍵を握る現在のビジネスにおいて迅速な変化に対応するためには、新規事業の立ち上げや季節的な増産、あるいは中核以外の業務まで、適材適所の人材をタイムリーに確保できることが重要になりました。

正社員という形で人員を増やす場合、採用や育成に期間がかかり、プロジェクトが終了しても簡単に解雇することはできません。そのため、新規プロジェクトがスタートするたびに契約を結び、満了すれば解散できるギグ単位での仕事が増えていくのです。

企業に所属しないギグに対応できる労働者になるために

ビジネスのスピードが劇的にアップした現代において、絶えず変化する市場についていくためのギグ、および効率よく適材適所なギグに対応できる独立した労働者の重要性はますます高まっていきます。

正社員として働く人々が独立して、ギグ・エコノミーの世界で成功するためには、企業側が必要とする即時性を満たし、顧客の望み通りの結果を出す必要があります。そのためには、自分のブランドを確立することが大切です。独立労働者という働き方には、一定のリスクが伴うことも事実。新しい働き方に一歩を踏み出す人は、まずは「誰かが買おうとする専門能力を本当に持っているか」を考えてみましょう。

自分のブランドを考えるひとつの手段として、「SWOT分析」が挙げられます。「強み」(strengths)と「弱み」(weakness)、「機会」(opportunities)、「脅威」(threats)の分析です。SWOT分析をして強みや弱みなどを洗い出すことにより、自分が培ってきたスキルを仕事に繋げられる領域が見つかり、新たなギグに対して適切な提案ができるようになります。

強みであれば、主要な技能(ハードスキル/ソフトスキル)や実績、成果。弱みであれば、専門能力の不足、嫌いなこと、失敗歴などを率直的に批判的な視点で捉えましょう。機会は、新しい市場や業界に転用できるスキルを表します。新しい技術にいち早く通じた人は、まだその技術を導入していない業界に知識を活かせることが強力な財産になるのです。例えば、業務を通じてデジタルマーケティングのスキルを身につけている人は、特にソーシャルメディアの活用が遅れている業種で高い価値を持ちます。脅威は、自分を脅かす存在になる競合相手、あるいは、経済的状況や生活をしていく上での報酬なども考えておく必要があります。

本書の研究対象は主にアメリカですが、日本でも終身雇用制度は崩壊しつつあり、副業や働き方改革を打ち出す企業が増えるなど、働き方は多様化しています。会社員をしている方は、今すぐフリーの労働者になるといっても現実味はないかもしれませんが、いつ早期退職や大規模リストラが起こるかわからない時代です。たとえ、「正社員」という肩書きがなくなっても、ギグ・エコノミーに参加して仕事を獲得できるよう、本書を参考に自分の市場価値を見つめ直してみてはいかがでしょうか。

CCCメディアハウスのコメント

ギグ・エコノミーやインディペンデント・ワーカーは、もはや「若いビジネス」ではありません。今まさに起きている新しい経済のかたちです。

この先、ギグ・エコノミーの拡大に伴って数々の法的問題や規制上の問題、社会的問題が生じ、国家は都度対処する必要が出てくると思いますが、ビジネスモデルは大きく変わっていくでしょう。

本書で述べている将来予測される変化をご覧いただき、ギグ・エコノミーが拡大する社会を生きるヒントにしていただければ幸いです。

【Kindle版】ギグ・エコノミー襲来
【書籍版】ギグ・エコノミー襲来

構成・文:藤原達矢

編集:アプリオ編集部