孤独な老女と中年女性の友情と悲喜こもごも、映画『クロワッサンで朝食を』

孤独な老女と中年女性の友情と悲喜こもごも、映画『クロワッサンで朝食を』

人はいくつになっても孤独はつらいと感じるもの。むしろ、年をとればとるほど知り合いも少なくなっていきますから、晩年のほうが孤独は一層深まるのかもしれません。

映画『クロワッサンで朝食を』は、そんな晩年の人生の過ごし方について考えさせてくれる作品です。パリで一人暮らしをする80歳代の老女と、彼女の家で世話係をすることになった40歳代の中年女性との心の交流を描く本作は、それぞれの女性が家族を失い、孤独を抱えている中でぶつかり合いながらも、互いを知り寄り添うようになるまでを描いています。

主演はフランスの大女優、ジャンヌ・モロー。偏屈な老女を存在感たっぷりに演じているのですが、気品が感じられる見事な存在感です。彼女の芝居だけでも一見の価値ありの作品です。

孤独な老女と母を亡くした女性

エストニアで年老いた母と暮らす女性、アンヌ(ライネ・マギ)は、離婚した飲んだくれの元夫に付きまとわれ、うんざりしています。そして、母の長い介護生活にも疲れを感じていました。そんな矢先に母が亡くなり、家族を失ったアンヌの元に、パリの家政婦の仕事の話が舞い込みます。パリはアンヌにとってあこがれの街。このオファーを受け、新しい人生の一歩を踏み出すことを決意します。しかし、パリでアンヌを待っていたのは、高級住宅に1人で暮らす頑固な老女、フリーダ(ジャンヌ・モロー)の嫌がらせとも思える仕打ちの数々でした。

フリーダは、アンヌと同じエストニア出身なのですが、故郷は捨てたらしくエストニア語は話しません。それどころか、パリのエストニア人のコミュニティとも絶縁状態。1人で生きられるとアンヌを追い出そうとしますが、彼女の元恋人であるステファンに説得され、アンヌは嫌々ながらフリーダの世話を続けます。

2人はぶつかり合いながらも、フリーダは徐々に心を開いていき、アンヌもパリでの生活に慣れ始め、服装も華やかになり、活力を取り戻していきます。しかし、アンヌが良かれと思って、昔のフリーダを知るエストニア人にフリーダの家を訪れるように声をかけたことがきっかけで、2人の関係は再びギクシャクしていきます。

実直で真面目な性格のアンヌと奔放なフリーダは、まったく異なる人生を歩んできましたが、孤独を抱える2人の心が引き合い、友情を育んでいきます。人生は大切な人がいてこそ輝くものなんだなと、この映画は思わせてくれます。

エストニアも玄関で靴を脱ぐ

本作は、フランスとエストニアの文化の違いも興味深く見せてくれます。例えば、エストニアでは、日本と同じで玄関で靴を脱ぐ習慣があるんですね。エストニアを捨て、パリで暮らしてきたフリーダは、靴を脱ごうとするアンヌを見て苛立つのですが、捨てた故郷の習慣を見てしまったことで、複雑な感情を覚えたのでしょう。

タイトルにもなっているクロワッサンは、フランスを代表するパンです。パンにこだわるフランス人らしく、フリーダは、朝食はかならずパン屋で売っているクロワッサンしか食べません。スーパーで売っているクロワッサンはプラスチックだと言い放ちますが、彼女はそれだけパリに思い入れがあるのだという描写にもなっています。

また本作は女性の友情以外に、2人の間を取り持つ男性、ステファンとの関係もユニークに描かれます。フリーダとステファンは親子ぐらいの年が離れていますが、実は過去愛人関係にもあった間柄。それが今でも友情が続いており、さらにはアンヌともロマンスが芽生えるなど、パリに生きる男女ならではの3人の関係性が展開されます。いくつになっても愛と性を忘れないで生きる姿勢は、日本人も見習うべきかもしれませんね。

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構成・文:杉本穂高

編集:アプリオ編集部